
大学の教員である前にデザイナーである私は、学生達と進める研究プロジェクトにおいても、私自身が対象物をデザインしてしまうことが少なくありません。
走行用義足のプロジェクトの中でも、膝継手(上の写真)の開発においては、私自身がスケッチを描き、CADデータも作成しました。
調査活動や議論の段階では学生達に積極的に参加してもらいましたし、義肢装具士や切断者達との折衝も学生達が中心になって行ってきました。メーカーとの会議にも学生達は参加していて、彼らのアイデアが実用化につながった部品もあります。
教育としては、学生達に自由にデザインさせながら、助言し、見守り、彼らなりの成長を促す事が好ましいでしょう。実際、私のワークショップ形式の授業では、そのような形で進めるのが普通です。
しかし膝継手の設計は、学生には難易度が高すぎました。バイオメカニクスの先端にあり、高度な製造技術による精密機械でもあり、その上、厚生労働省の資金によるメーカーとの共同開発プロジェクトなので、スケジュールは厳守なのです。
例えば上の写真の小さな部品の多くは既存の市販部品ですが、その選定理由を知った上で、メーカーのエンジニアが作成したレイアウト図の意図を的確に読み取り、見た目と機能を同時に向上させる再配置を、非常に短期間で逆提案する必要がありました。もちろん、それぞれの部品の加工可能性も配慮されなければなりません。
最終的には「客に出すものは、料理長がやるしかない」状態になりました。こういう時は、私の手元を見てろとしか言いようがないので、できるだけ学生達の目の前でスケッチを描き、刻々とCADデータを見せるようにします。質問があれば語りながら設計を進めることも。
だから学期の始めに研究室の学生達に話します。「場合によっては私がデザインしてしまう。しかし、その時こそ学べるチャンスなので、私の一挙手一投足を見逃すな」と。
本音を言うと責任のかかった中での模範演技は、結構しんどい。

Takeo Paper Show 2010 [proto-] のために、SFCの学生達ともうひとつ展示物を作りました。
テーマは「風と紙」。
紙は、水に溶けた繊維が網にすくいあげられてシート状になるところから作られて行くのですが、それだけでは完成しません。繊維の間から水を追い出し、空気を含ませる、すなわち乾燥させることによって、私たちが良く知っている「軽さ」を獲得します。
その軽さ、薄さのおかげで、紙は私たちの生活に広く浸透しています。毎日、膨大が紙が軽やかに情報を運び、重量を付加する事なく大切なものを包み、汚れをぬぐい去り、消えて行きます。こうした大量消費を支える軽さは、紙が社会の中で活躍するのための生命線であるとも言えるでしょう。
このような紙の軽やかさを表現する作品として、「風をはらんで、命を宿す」という作品を制作しました。紙は風にあおられて、はかなく舞います。どこかに行ってしまうように見えて、ふわりと舞い戻るしたたかさも見せてくれます。紙の循環は「水と紙」、「風と紙」二つの作品に共通するテーマになっています。
展示には、ダイソン社に協力をいただきました。最新のテクノロジーと紙の共演を楽しんでください。
(Photo: Hideya Amemiya)

卒業の季節ですね。SFCに研究室を持つようになって2年、当初から一緒にやってきた学生達の卒業は感慨深いものがあります。
手探り状態の2年でした。工学部の設計課題のまねごと、美大の課題のまねごとから始めてみました。私自身がここで何を教えるべきなのかを迷いながらの研究会でしたから、決して効率の良い教育ではなかったでしょう。それでも学生達は本当に多くの時間を私と研究室の仲間のために費やしてくれました。
行く先が見えなかったよちよち歩きが、少しづつ統合され、いくつかの成果にまとまり始めています。それが、アスリートのための義足だったり、骨展に展示されたロボットだったり、まだ発表できていない○○だったり。
大学院に進む学生とは、もう少し長いつきあいになりそうです。ほとんど独学のロボティクスでFlagellaを作り上げた二人は、ドクターコースに進みます。修士に進む学生の繊細な指先は、今後の活動の中心となってくれるでしょう。
その一方でこの二年間、中核だった三人が就職して行きます。肉食係女子と草食系男子という言葉がよく似合う3人でした。初回の研究会でいきなり私にかみついた「かみつき系」女子は、本当に力強くプロジェクトを引っ張ってくれました。もう一人の肉食系女子は、最初のプレゼンで痛烈にこき下ろしたにもかかわらず、シャープな言語感覚を発揮し、骨展や義足プロジェクトの根幹となる思想に気づかせてくれました。4本脚のニワトリを描いた草食系男子は強い責任感を発揮して物静かに多くの仲間を引っ張ってくれました。
五十を過ぎてふらりと大学にやってきた私と、二十を過ぎてこれから社会に出て行く学生達の一瞬の乗り合わせ。
あっという間の二年でしたが、生涯、忘れることはないと思います。

フィールドテストに立ち会いながら、二つのことをとてもうれしく思いました。
ひとつは、迷惑をかけてばかりとはいえ、うちの学生が義肢制作の現場に受け入れられ、義肢装具士の方の指導をあおぎながら一緒に作業していたこと。
もうひとつは、若い義足ランナーが、私たちのデザインした義足で何度もトラックを走ってくれて最後に、「今日は本当に楽しかった」と話してくれたこと。
どちらも、義足製作や障害者スポーツの場を、初めて見学したときに思い描いた光景でした。しかし、その時点ではデザイナーがほとんど関わっていないこの医療現場に、私たちが受け入れられる可能性については全く自信が持てませんでした。
デザインは、適切に機能すれば、いかなる場面いかなる場所においても、少なからず人を幸せな気分にする力を持っています。それは、ささやかな幸せかもしれませんが、その力は決して無力なものではありません。しかし同時に、しばしばデザインが「余裕がある人のためのもの」としか理解されていない場も経験してきました。そういうデザインの空白エリアを見つけては、首を突っ込むのは私の性なのですが。
実際に関わり始めてみると、私たちの知らないことがあまりにも多く、何ができるのかを探るところから始めざるを得ませんでした。私と学生達は義肢製作の現場、学会やリハビリセンターなどに足を運び、研究者や医療従事者を訪ねて義肢についての勉強を始めました。ヘルス・エンジェルスという下肢切断者を中心とするスポーツクラブの練習会などに何度も参加し、学生達も一緒に身体を動かしながら、何が必要とされているかを考えてきました。
人との接し方やプロジェクトの進め方には学生達もだいぶ悩んだみたいで、時には無力感も感じ、研究室で学生同士が激しく言い争う場面も少なくなくなかったようです。他のチームメンバーから「義肢チームはいつもギシギシしてる」などという、笑えない報告を何度聞かされたことか。
手探りの一年半でしたが、文字通り走り始めたことを実感できるこのごろです。

「スポーツ用義足の膝継手、板バネ等の開発」紹介パンフレットより。
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Further Step
人の体と、人のつくりしものが一体となり、世界を駆け巡る。私たちはそんな夢を「義足」に託しました。
義肢は元々、失われた四肢を補完するために存在しています。機能と外観を健常者に近づけることが理想のデザインでした。これまでの義足は、それがどのようなデザインであるかさえ知られないままに、衣の下にありました。しかし、義足のアスリート達がスタジアムを駆け抜けるとき、隠すものから見せるものへ、そして賞賛されるものへと、義足が変わりつつあることに気づきます。技術は、より速くより高く躍動しようとする人体のために、新しいかたちを生み出し始めたのです。
とはいえ、スポーツへの扉は開かれたばかり。現状のアスリートたちの足は、既存の限られた部品をかき集めて、試行錯誤を繰り返しながら作られています。志のある人たちが走り始めた今こそ、誰もが愛するスポーツのために、アスリート達をより美しく躍動させるための新しい義足が必要なのです。
私たち慶應義塾大学SFC山中俊治研究室は、エンジニアリングとデザインを通じて、人と人工物の新たな交わりを研究しています。多くの人のための機能的で美しいスポーツ用義足を作りたい。そして、スポーツを愛する選手たちのメダル獲得を、可能な限りサポートしたい。そのような思いでスポーツ用義足の研究開発を進めています。
*この研究は「スポーツ用義足の膝継手、板バネ等の開発」として、株式会社今仙技術研究所および財団法人鉄道弘済会と共同で、平成21年度障害者自立支援機器等研究開発プロジェクトに採択されました。
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今日はXD eXhibition 10の初日。大谷先生とのトークショーも予定されています。このブログを見て、会場に来てくれた人、是非声をかけて下さい。
(写真撮影:清水行雄)

この1年、公的助成を受けながらメーカーと協力して開発してきた義足の試作機が、いくつか形になってきました。今、全国にちらばる約30人の義足ランナー達に協力してもらってのフィールドテストの真っ最中です。
義足の使用者は日本全国で約八千人にすぎません。一時使用の人やお年寄りも多いので、スポーツ用義足を必要とする人は、潜在的な需要を合わせても数百人でしょう。しかも、失われた脚の状況は一人一人違うので、ひとつのデザインがカバーできる人の数は本当に少ない。今回のフィールドテストでも、こちらから提供する部品を使いつつ、それぞれの被験者を担当する義肢装具士がひとつ一つ手作りしています。
デザインという職業は、近代産業の中で、ひとつのひな型が大量生産される事を前提に成立しました。従ってこれほどの少量生産では、従来の意味でのデザイン・ビジネスは成立しません。しかし、「先端技術と人の関わりを設計する技術」という意味でのデザインが必要とされているのは明らかです。その意味では、マス・プロダクションの申し子であるデザイナーという職能が、真のマイノリティに対するローカルカスタマイズに、どのように貢献できるのかを問う試金石であるように思います。
この義足を見た、障害者医療の研究者の一人がこんな声をかけてくれました。
「この義足を使って走る人は、数十人かもしれない。しかし、その人たちが大観衆の前で走れば、その瞬間にこれは何万人もの足になるでしょう。」
この義足は、日曜日から3日間、アクシスギャラリーのXD eXhibition 10で展示されます。

最近どうも、医学生物学系の人と話すのが楽しくて仕方がない。それに目覚めさせてくれたのは養老先生でしたが、先日の倉谷さんとのセミナーも本当に刺激的な体験でした。
今度は、医学博士の大谷俊郎先生とトークショーを行います。大谷先生の専門は整形外科。慶應病院のスポーツクリニック担当でもある大谷先生は、特に関節の権威で、皆さんも良くご存じの有名プロスポーツ選手の膝を、幾例も手術で回復させた、知る人ぞ知る名医です。
写真は、美術品のように美しいと大谷先生が紹介してくれた最新の人工膝関節です。酸化ジルコニウムという耐摩耗性に優れた特殊合金製の深いグレーが何とも気品があります。すばらしい光沢ですが、これは通常の工業製品の鏡面仕上げとはレベルの違う高精度研磨がかけられているからです。わずかな凹凸でも長年使っているうちに不具合に成長するので徹底して平滑にしてある。まさに機能美ですね。医療用品は基本的に「展示」を行わないのですが、骨展では、大谷先生の力添えで展示することができました(これも)。
今回は、SFCのエクスデザイン展覧会の会場イベントであるトークセッションのお相手として、指名させていただきました。当日の話題については、出たとこ勝負なのですが、先日打ち合わせをしたときに、会場で詳しく聞いてみようと思った話題をいくつかばらしますと、こんな感じ。
「膝関節は、少し隙間があった方が良く回る」「人の体に埋め込むものは、品質管理上、梱包も普通じゃない」「膝の専門家は、軸受けのエンジニアと話が合う」「生物学的製剤」「人工膝関節でスポーツは可能か」「外角低めをホームランする膝の使い方」などなど。
ヒンジや軸受けなどの回転ジョイントは、プロダクトのデザインにおいても、キーポイントのひとつ。今からわくわくします。
トークショーの日時は3月14日(日)16:00〜17:30、場所は六本木アクシスギャラリー。無料ですが、席の事前申し込みが必要です(定員50名)。詳しくはこちら
(写真撮影:吉村昌也)

私の研究室がある慶應義塾大学SFCエクス・デザインの、展覧会のお知らせです。骨のあるようなないようなロボット Flagellaにもう一度会いたい人、まだ見てない人は是非どうぞ。
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XD eXhibition 10
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 エクス・デザイン展 2010
展示会期:2010年3月14日(日)〜16日(火)
時間:2010年3月14日(日)13:00〜19:00 / 3月15日(月) 16日(火) 11:00〜 19:00
場所:AXIS ギャラリー (東京都港区六本木5-17-1 AXISビル 4F)
主催:慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 エクスデザインプログラム
参加費:無料
HP:http://xd.sfc.keio.ac.jp
【展示概要】
慶應義塾大学エクス・デザイン(XD)の第2回展示会のご案内をお送りいたします。
今回はインターフェイス、ロボット、音楽、映像、プロダクト、メディアアートなど
多様な分野にわたる十数点の作品展示と技術デモを行います。
会期中、山中俊治、坂井直樹、岩竹徹らをはじめ本プログラムに関わる教員によるセッションも予定しています。
是非この機会にお気軽にご来場を賜りますようご案内申し上げます。
【参加者】
岩竹 徹(コンピュータミュージック)
筧 康明(インタラクティブメディア)
加藤 文俊(コミュニケーション論)
坂井 直樹(プロダクトデザイン)
田中 浩也(メディアインスタレーション)
中西 泰人(ヒューマンインターフェイス)
藤田 修平(映像製作)
山中 俊治(インダストリアルデザイン)
脇田 玲(情報デザイン)
及び各研究室の院生/学部生
【ゲストスピーカーセッション】
■ 3月14日(日)
・14:00〜15:30 岩竹 徹(本プログラム教員)
ゲスト:伊東 乾(作曲家・指揮者)
湯浅 譲二(作曲家・カリフォルニア大学サンディエゴ校名誉教授)
・16:00〜17:30 山中 俊治(本プログラム教員)
ゲスト:大谷 俊郎(慶應義塾大学教授、看護医療学部、医学部整形外科、スポーツクリニック(兼担))
■ 3月15日(月)14:00〜15:30 坂井 直樹(本プログラム教員)
ゲスト:しりあがり寿(漫画家)
■ 3月16日(火)14:00〜15:30 脇田 玲(本プログラム教員)
ゲスト:小林 茂(IAMAS)
定員:50名(各回) 事前申し込み
お名前、所属、連絡先、希望日程を明記いただき、下記アドレスまでお送りください。
お問い合わせ先:TAIRA MASAKO PRESS OFFICE 担当 平昌子
masako@tmpress.jp

日産自動車に桜井眞一郎という人がいました。名車スカイラインの主設計技師を6世代にもわたって勤め「スカイラインの父」と呼ばれています。私が入社したときにその桜井さんが、技術系入社式の壇上に上がって、話をしてくれました。
「出世して、社長になって高い給料をもらいたいがために、この会社に入ったという人は、ここにはいないと信じます。」
少し挑発的な発言から始まったその講演は、ものづくりの喜びに満ちていて、大変印象的なものでした。メモもないので、不正確かもしれませんがこんな言葉が心に残っています。
「新しい車の開発が始まると、私は3ヶ月ほど自室にこもります。大きな図面台に向かって、サスペンションの軸の角度やエンジンの位置をひとつ一つ検討し、全体の計画図を書き上げるのです。長く孤独な時間です。」
出世を求めない桜井さんは、その4年後にはスポーツカー開発の子会社に移籍してしまいました。職人肌だなあと思いました。自分もそうありたいと。
私は今、その時の桜井さんとほぼ同じ年齢になり、今日もCADに向き合っています。道具は変わってしまいましたが、ものづくりの喜びに満ちた孤独な時間に迷いなく向き合えるのも、あの言葉を聞いたおかげかも知れません。
大学の研究プロジェクトでも、学生からデータを取り上げて自分で手を入れてしまう私ですが、学生たちに出世を求めるなとまでは言えません。…言ったかな。
(CAD図面はコクヨ「アヴェイン」の初期のもの)

ふっくら、ぽってり、ゆったり、粘り着くような、流れるような、張りのある、しっとりとした…。こうした表現からどんな曲面を思い浮かべますか。
曲面が持つニュアンスには、それを作る素材の物性が色濃く現れます。その由来をはっきり意識する事は、立体物を作るデザイナーにとって、とても重要なことです。
固いものが研磨されてできる曲面、液体が表面張力で作る曲面、伸縮性のある膜を引っ張ったときの曲面、内部の圧力で膨らんだ曲面、成長によって形成された曲面。それぞれに全く性質が違うので、むやみに混在させる事は御法度。デザイナーは意識して使い分けます。
私が慶應義塾大学SFCで受け持っている演習授業では、「河原の小石」という課題を出題しています。
「木片を削って、河原に落ちている石ころに見えるオブジェを作りなさい。」
課題の目的のひとつは、頭でっかちになりがちな学生達に、自分の手でとことん立体とつき合う経験をさせることなのですが、もう一つ、自然の営みの中で生み出される曲面の「典型」を探させる演習でもあります。
面白いのは、ただ河原から石を拾ってきて、それをそのまま模写して木で作っても、少しも石には見えないことです。たくさんの石の中から、エッセンスを感じ取って典型的な石を作る事。それがうまくできると、本物の石より石らしい立体を作る事ができます。
先日、たくさんの木製の小石を持ってきた学生がいました。この課題の提出が終わってからも、半年間、少しずつ作ったそうです。求道者に出会って、ちょっと楽しくなりました。
写真は腕時計OVO(2007年)、撮影:清水行雄