世界は円柱でできている

Bones,Daily Science,Sketches — yam @ 5月 23, 2011 10:40 am

ポール・セザンヌは友人への手紙の中で、「自然を円柱、球、円錐として扱え」と書いたそうです。その意味については諸説あるようですが、私が工業製品のデザインスケッチを描くときにも、この3つの立体が起点になる事は確かです。工業製品の場合、モーターやヒンジやギヤなどの動く所はほとんど中心軸を持つ回転体で、大小さまざまな円柱や円錐が折り重なって主な構造体を作っています。四角い立体のコーナーの丸みも、立体として捉えればたいてい1/4円柱になります。

人体の場合も、体の各部を円柱、球、円錐に置き換えて構成して行くと描きやすくなります。実際、漫画の入門書などにもそんなことが書いてある。しかしこれだと、デッサンの基本の話でしかありませんね。セザンヌのこの言葉は、美術の教科書には、キュビズムの夜明けとして引用されているようですし、上の絵などを見るとこの時代としては新しい形の見方だったのかもしれません。でも、実はセザンヌも、単に友人にデッサンのコツを教えていただけだったりして。

これに関連して、科学ジャーナリストのこばやしゆたかさん(@adelie)さんのつぶやきで、あることを思い出しました。「象の時間ネズミの時間」で有名な本川達夫さんは、全ての生物の体は「円柱形」であると主張しています(歌まで作ってる!)。発生学者の倉谷滋さんも以前お会いしたときに、「節のある円筒が生物の基本構造だ」と話してくれました。福岡伸一さんも著書の中で、「人間は考える管」であると。

確かに生き物の体は、「管」が基本になっています。ミミズのような非常に原始的な動物は口から食物を入れて後ろから排泄する単なる管になっていて、進化とともにいろいろ複雑にはなったものの、多くの動物の基本構造はみな同じです。手足などの骨も全て大まかには中心軸の周りに対象な円筒または管になっていますし、樹木などの植物は、まさに枝分かれする円柱そのものです。

もしかすると、自然を見ることに優れたセザンヌは、動植物の普遍的構造である円筒を直感的に感じ取っていたのかもしれません。セザンヌの直感と生物の基本形が、なんかぴたっとつながってとてもうれしくなりました。芸術にも造詣の深い本川先生の事だから、どっかでセザンヌくらい引用してそうですが。

上の絵はセザンヌの「カード遊びをする男達」。下のスケッチの右側の生き物はベルベットワームです。(ベルベットワームは有爪動物という体の部品がほとんど管でできている原始的な動物。動画を一応リンクしておきますが、気の弱い人は見ない方が良いです。)

手を描いてみましょう

Bones,Sketches — yam @ 2月 18, 2011 12:22 am

先日twitterでこんなことをつぶやきました。

手をうまく描くコツは、丸い板に五本の指が生えている物として描くのではなく、手首から5方向に分かれている長い指があって、最初の関節までは肉が間を埋めているものとして描く事だ。(Feb 10, 1:00am

これに対し、「ほんとだ。生まれて初めて手が描けた気がする」というコメント付きで、米国在住の木田泰夫( @kidayasuo )さんが描いて、公開してくれたのが上のスケッチです。右の絵は「丸い板に五本の指」として描かれていますが、左は「手首から5方向に分かれている長い指の間を埋める」ように描かれています。左の絵の方がずっと手らしく見えますね。

木田さんは、「ことえり」をはじめとするアップルの日本語環境の開発責任者であリ、アップルを代表する技術者の一人です。おそらく絵を描くことに慣れてはいらっしゃらないと思うのですが、即興で、実に飲み込みの良いスケッチを描いてくれました。以前にも私は「形を描こうとしてはいけない。構造を描くことによって自然に形が生まれる。」などと言って来ましたが、このスケッチは骨のつながりを理解して描くことの大切さを伝えてくれる好例だと思います。

私たちは、しばしば「見たままに描く」ことにこだわります。しかし私たちの眼がカメラと一番違うのは、入って来た図像をそのまま焼き付けるのではなく、直ちに対象の意味を理解し、それに解釈を加えて記録することです。

視覚情報を直ちに解釈することは私たちが世界を理解する上ではとても大切なことなのですが、その解釈が絵を描くことを邪魔する場合もあります。手を見て丸い板に五本の棒が生えているものと理解することは、実生活上は実用的かもしれませんが、指と指の相互関係を見失わせます。そこで、見えない部分の解釈を付け加えることによって、指と指、指と手首の関係がはっきり意識させると、手らしい手を描くことができるのです。

このつぶやきに対し、恐竜などの古生物の図鑑のイラストなどをたくさん描いていらっしゃるイラストレーターの小田隆( @studiocorvo )さんから、「見かけ上、手の甲側からと手のひら側からでは、指の長さが違っている」ことも重要だという助言をいただきました。下記のブログで、模範ともなる素晴らしい手の絵を見ることができます。

鴉工房: 手を描く1

ツイッターがきっかけになって、海外の人もプロの人も一緒に手の絵を描いてみる。そんなつながりをうれしく思った夜でした。

(イラストは木田さんのflickerページからの転載です)

奇人天才シリーズその5.5:檜垣万里子さん

Bones,Genius,Mac & iPhone — yam @ 7月 21, 2010 5:39 pm

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分解大好き万里子さんは慶應義塾大学脇田研究室の出身で、学生のときに Ephyra 製作チームのリーダーでした。その頃からすっかりメカの好きな学生になり、人数の少ない9月卒ながらSFCを首席で卒業して、私の元に来てもう三年になります。

「骨」展ではアシスタントディレクターを務め、私と一緒に洗濯機の骨を探して工場を隅々まで歩きましたし、椅子も携帯電話もPCMレコーダーも分解しました。クロノグラフの百以上ある微小部品をひとつ一つアクリルの板の上に並べたのも彼女でした。

MacBook Airの分解でも、彼女に指揮を取ってもらいました。元に戻すことができたら万里子さんのものにしても良いという約束で始めて、元に戻したときには4時間が経っていましたが、今でも元気に動いているようです。

先日、iPhone 4の実物を初めて見たときの第一声は、「このネジに合う工具はなかなか手に入らないんですよ」。もう十分、奇人の仲間入りでしょう。天才ぶりはまだ見せてくれてはいないのですが、天然ではあります。

いまさらながらiPhone 3Gのボディの秘密に気がつきました」という記事も彼女が自分の3Gを分解したことがきっかけでした。ひとつ一つ部品を楽しそうに見せてくれる彼女の報告を聞いているうちに、ボディの不思議なツールマークに気がついたのです。

この記事は大変大きな反響をいただき、桁違いのアクセスがあり、コメント欄でも議論白熱です。今のところ、おおざっぱに言うと、「普通はやらないことだが、こう考えると筋が通る」という私の主張に対して「アップルの意図はともかく、常識ではこう見るべき」という反論が技術屋さんから寄せられているという構図です。

今のところ「常識」の範囲内に、アップルが何故そんなことをしたのかを明確に説明できるストーリーは見当たらないと感じています。私は、一見非常識に見えても、筋が通っていると感じた考え方をいつも採用してきました。わくわくするブレークスルーはそこにしかないからです。

問題のツールマークをさらに拡大した写真をアップしておきます。なにが正しいかはアップルのみぞ知るですが、この議論自体を大いに楽しみたいと思います。自分で確認しましたっていう、第2、第3の万里子さんの意見が聞きたいですね。

ちなみに、30日にアップルストアでトークショーをやります。場所が場所ですが、このネタを扱う予定はありませんので、よろしくです。

いまさらながらiPhone 3Gのボディの秘密に気がつきました

Bones,Mac & iPhone — yam @ 7月 19, 2010 1:56 am

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分解大好きお姉さんの万里子さんが、不要になったiPhone 3Gを分解しました。その結果、今更ではありますが、ひとつ発見がありましたので報告します。

上の写真は、3Gのプラスチックボディの内側です。よく見ると通常のプラスチック部品ではあまり見られないツールマーク(縞模様のような溝)が見られます。この溝は、ボディの内側をNC加工(コンピュータコントロールのドリルによる切削)した痕跡です。

ユニボディと言われるMacBook ProやAirは、アルミニウムの固まりから削って内面を作るので、ボディの内側全体がNC加工のツールマークに覆われています。これはiPADも同じです。しかし、プラスチックの部品の場合は、型に始めからかなり複雑な形状を作り込むことができるので、後から加工することは通常行われません。

にもかかわらず3Gのボディの内側は、全体の5分の一ぐらいの面積がツールマークで覆われていました。明らかに、一度、型を使って成形してから、その後にNCマシンにセットして、ドリルで内面の一部を削り込んでいるのです。

何故こんな二度手間をするのか。

答えは、デザインにあります。iPhone 3Gの背面はご存じのようになめらかな曲面で覆われています。多くのデザイナーはその曲面の精度に驚嘆しました。プラスチックは冷えて固まるときにゆがみやすく(専門用語でヒケと言います)、なかなかこうはいかないものだからです。ゆがみを少なくする最も確実な方法は、プラスチックの厚さを一定に作る事です。例えばマイティマウスの内側はつるんとしていて分厚い樹脂が使われています。しかし携帯電話の場合はそうはいきません。薄さ、軽さは最優先事項ですから。

もうお分かりでしょう。アップルは、iPhone 3Gの見事につるんとした背面を作るために、まずはボディを少し厚めに一定の厚さに成形しました。それから、薄くする必要があるところだけをドリルで削って薄くしました。電子機器メーカーの常識では、コスト的にあり得ないような手間をかけることによって、極薄のしかし完璧な曲面のボディシェルを実現していたのです。

美しい形を実現することへのアップルの執念に、いまさらながら脱帽。

本当に胸がつぶれる話

Bones,Daily Science,Sketches — yam @ 7月 2, 2010 1:30 am

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「肋骨のはたらきは?」と聞かれると、多くの人は「内蔵を守る」と答えるでしょう。しかし、そうすると大切な臓器の大半が、やわらかいおなかにあるのも不思議です。もちろん心臓を保護する役割も果たしているのですが、実はもっと重要な機能があります。それは呼吸です。

肋骨は後方で背骨につながり、前方では胸骨につながっており、全体としては前後2本の縦棒の入った提灯のような構造になっています。左上の図は人の胸郭の簡単なモデルです。連なるリングが肋骨、右側の長い縦棒が背骨、左の短い棒が胸骨。内部に風船のような「肺」をおいてみました。

一見がっちりした構造に見えますが、実はそれぞれリングと前後の縦棒は、一種の関節になっていて、角度を変えられるように、つながっています。

ここで胸骨にあたる短い棒を下に動かしてみましょう。すると連なったリングは一斉に左下がりに傾きます(左下図)。その結果、胸骨は背骨に近付いて風船をつぶします。ずらりと並んだ柱が一斉に倒れて、建物が一方向に倒壊するのと同じですね。胸骨を上に引っ張ってリングを引き起こすと、最初の状態に戻って肺が空気を吸い込みます。

実際にはこの動きは小さなものなので、胸がつぶれるように見えることはありませんが、仰向けになったまま、大きく息を吸い込むと胸が、あごの方に向かって移動しながら、せり上がってくるのを確認することができます。一見頑丈な建築物のように見える肋骨は、呼吸のたびに倒れたり起き上がったりを繰り返しているのです。人の体って不思議ですね。

少し構造は違いますが、最近テレビにも登場するようになった土佐さんのWahha Go Goも、ふいごの肺を持っています。それがせり上がって空気を吸い込むのは、なかなか見事なアナロジーです。

脳内テープレコーダー

Bones — yam @ 6月 27, 2010 4:16 pm

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小学校の低学年の頃の私は、困った生徒でした。小学校2、3年の私の通知表を見て、「学習態度の欄って、こんなにぼろくそに書かれることもあるんだ。先生に嫌われたんだねー。」と妻があきれるほど。

私は、授業中に空想の世界に入ってしまう子供でした。鉛筆や消しゴムを空飛ぶ乗り物に見立てて、レースをしたり戦争ごっこをしたり。さすがに声は出さないのですが、夢中になって、筆箱や鉛筆を落とすことも少なくありません。先生としては当然、不意打ちの質問で注意を授業に引き戻そうとしてくれます。「聞いてませんでした、ごめんなさい」となるはずだったのですが、私の場合は少し違っていました。

自分でもどういうしくみかわからないのですが、先生の声が過去数秒分(ときには数十秒分)頭の中に録音されていて、音楽のように鮮明に再生されます。それをしばらく聞いて、ようやく先生が何を話していたか、何を質問されたかを理解します。聞いてない風に見えた私が、質問されてから数秒間考え込んだかと思うと、おもむろに返事をしはじめるので先生も驚いたでしょう。これが繰り返されるので、先生もかなり手を焼いたらしく、何度か両親が呼び出されて一緒に怒られてました。山田先生、本当に申し訳ない。

どうやら自分の頭の中には、聞こえてくる音声を、意味がわからないままの状態で一時的に保管する場所があるようです。歳をとって少し精度は悪くなりましたが、作業中に話しかけられたり、人と議論をしていて新しいアイデアを思いつくと、たちまちこの状態に入ってしまいます。

ため込んだ声を聞き直す間、私は外部に対して無反応になり、じっと相手を見つめていたりします。家族は慣れっこなので、「また時計マークが出てる」とかいいながら待ってくれますが、学生には結構怖がられたりもします。聖徳太子のようにいっぺんにできれば良いのですが、ひとつ一つしか処理できないので、どうか温かい目で見守ってやってください。

情報技術的に言うと、概念操作領域が忙しいときに、前のプロセスの終了まで生データを一時保管しておくバッファ、でしょうか。処理中に入力が無視されないのは便利ですが、応答遅延があるのが難。

同じような脳内処理をしているという人にはまだ会ったことがないのですが、どこかにいらっしますでしょうか。

(写真は「骨」展に出品されたPCMレコーダー。撮影:吉村昌也)

筋肉バネ

Bones,Daily Science — yam @ 6月 11, 2010 4:01 pm

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義足に関わるようになって、人の体のメカニズムにとても興味を持つようになりました。にわか仕込みのスポーツ・バイオニクスの話題から。

スポーツの世界では「体をバネのように」とか「膝のバネをきかせて」というような表現を良く聞きます。かつては単に比喩的な表現だと思われてきたのですが、近年、筋肉が本当にバネとして働いていることが明らかになってきました。

人が普通に立ったりしゃがんだりするとき、腿やふくらはぎの筋肉は、引っ張りながら縮む動作と、弛緩して伸びる動作を繰り返します。こうした運動では、筋肉は、建設機械の油圧シリンダーなどと同じように力を出す装置として働いています。しかし、ぴょんぴょん跳ねている時のふくらはぎの筋肉は、少し違うようです。

一般的に、しゃがんだ状態からジャンプするよりも、一度軽くジャンプして踏み込んでから地面を蹴った方が高く飛べる事は、誰もが経験するでしょう。いわゆる反動を付けるというやつです。この時、「ふくらはぎ+アキレス腱」全体は、自ら伸びようとするのではなく、着地の衝撃で引き延ばされてポテンシャル・エネルギーを溜め込み、直後にそれを解放して次のジャンプに移行するそうです。このメカニズムはほとんどコイルスプリングと同じ。

こういう使われ方をするときの筋肉は、とても短い時間で、伸張から収縮に転じることができ、スピーディな動きを可能にします。最近ではバスケットなどのスポーツにおいても、できる限り短い踏切時間で高く飛ぶための、バネ強化トレーニングが研究されているようです。

やっぱりスポーツって、体のバネ命。桜木花道が、試合中に「あっという間に誰よりも高く飛ぶ」のは、どうやら、常人じゃないバネ特性の筋肉の持ち主だということですね。

竹尾ペーパーショウ大阪編

Bones — yam @ 5月 28, 2010 2:37 am

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Takeo Paper Show 2010 [proto-] の大阪展が始まりました。

「水より生まれ、水に帰る」は、東西の交流周波数の違いで、一部のポンプがうまく動かないというというトラブルに遭遇。

ご存じのように日本の電力供給は、明治の頃に東京ではドイツ製の50Hz発電機が、大阪ではアメリカ製の60Hz発電機が導入され、互いに譲らず勢力を拡大して日本を二分したまま今日に至っています。近頃の電気製品の多くは両方に対応しているので気がつかない人も多いのですが、今回、東京で製作した装置を大阪で展示してみたら、どうも循環用のポンプでカリカリと異音が。

こんな時のために2人も送り込んでおいたのに、一人は新婚生活を大阪のご両親に報告とかで浮かれているし、一人は京都の9hours(柴田文江さんデザインのカプセルホテル)の寝心地が良すぎて遅刻するしで、結構ばたばたしたみたいです。結局、近くの熱帯魚屋さんに走って、大阪製の循環ポンプを手に入れて交換し、予定通り稼働。全体としては問題なく初日の展示を終えました。

最近、ダイソンからエアーマルチプライヤーによるすばらしい実験映像が公開されましたが、実はこのペーパーショウの私達の作品「風をはらんで、命を宿す」にも4台のエアマルチプライヤーが使われています。私たちもいっぱいいろいろなものを通して実験しました。

後2日間、紙と水、紙と風の戯れを楽しんで下さい。入場無料でっせ。

開場時間: 27日(木) 15:00→20:00
28日(金) 10:00→20:00
29日(土) 10:00→17:00

※入場は終了時間の30分前まで
会場: 松下IMPホール ※会場が変わりました
〒540-6302 大阪市中央区城見1-3-7 松下IMPビル2階
連絡先Tel:06-6941-0941
[交通手段]
・JRご利用の場合=京橋駅 西口改札より徒歩5分
・京阪本線ご利用の場合=京橋駅 片町口改札より徒歩5分
・地下鉄ご利用の場合=長堀鶴見緑地線、大阪ビジネスパーク
駅より改札を出て4番出口より徒歩1分

来場、ありがとうございました

Bones — yam @ 4月 19, 2010 12:29 pm

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[proto-] 感じるペーパーショウ」には、連日、たくさんの方に来場頂きました。ありがとうございました。

最終日の閉演30分前に、「水より生まれ、水に帰る」の網のベルトコンベアのつなぎ目に亀裂が入りました。ホッチキスで応急措置をしてどうにか最後まで持たせましたが、危うく断裂するところでした。完成したのも開催直前でしたが、耐久性もギリギリだったようです。

「風をはらんで、命を宿す」では、ダイソン社の羽根のない扇風機は全く問題なく働いてくれましたが、空中に浮かぶ紙のくらげ達(私たちは、スカイフィッシュと呼んでいます)は、かなり損耗しました。学生達がひとつひとつお椀型に漉いたスカイフィッシュは、風に煽られ続けるうちに繊維が抜けて薄くなり、だんだん形が保てなくなるのです。会期中も作り続けて、用意した数十枚が最後は底をつきました。

このように、最短のスケジュールで進行し、予定期間以上の耐久性を持たず、無駄なく使い切る設計を、エンジニアリングでは最適設計と言います。なんちって、ほんと、すべてが綱渡りでしたが、最後までなんとか皆さんに楽しんでいただけてほっとしています。

全体としては、大勢のクリエイターたちが様々な紙の使い方を提案するという、一昨年までのペーパーショウとは随分おもむきが違うものになりました。

私たちが日常的に接している、メディアとして、あるいは使い捨ての素材としての紙に、既に限界が来ている事は明らかです。そうした中で、改めてマテリアルとしての「紙」に触れてもらう事を中心に展示構成を組み立てました。高度な印刷技術も映像も、センサーを使ったインタラクティブな仕掛けもほとんど使わず、ひたすらに紙の物性を訴求する。そういうコンセプトは非常に初期の段階で山口さん、緒方さんとの共通認識になりました。おかげではっきりとしたメッセージを発することはできたように思います。この3人を指名してくれた竹尾さんにとても感謝しています。3人のディレクターの間で行われた議論については、いずれゆっくりと紹介させてください。書籍化も予定されていますし。

多くの方から感想を寄せていただきました。ハッシュタグ#TPS2010で皆さんのつぶやきも読めます。感想ブログを収集していますので、コメントやトラックバックなどで伝えていただければ幸いです。

ワニトンマに告ぐ

Bones — yam @ 4月 17, 2010 10:38 am

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ワニトンマさん

東京にお住まいでしたら、是非今日の夕方、東京丸ビル
7階ホールの竹尾ペーパーショウに来て下さい。お会いしたいです。

山中俊治より

上の絵は、私が小学校低学年の頃に作ってしょっちゅう描いていた、「ワニトンマ」というキャラクターです。もう記憶が定かではありませんが、こんな感じだったと思います。昨日のエントリーにこんなコメントがつきました。

私も子供のころその海で泳いだ記憶があります。
ビーチボールが流されて泳いでも追いつけず困っていたところ
地元の子が颯爽と泳いで、取ってきてくれたことを思い出しました。
ちなみに私のおばあちゃんは像のような人でした。

Comment by ワニトンマ — April 16, 2010 @ 10:05 pm

私の祖母はゆったりとした物腰で優しく、本当に象さんのような人でした(お顔もそんな感じ)。小学生の頃、祖母の家の近くの海にいとこ達と海水浴に行きました。流されたビーチボールの記憶もあります。その上、HNがワニトンマですから、私の子供の頃をよく知っている人の書き込みである事は間違いありません。

でも父の兄弟は多く、「象さん」を祖母に持ついとこは山ほどいて、いまいち誰なのか特定できないでいます。連絡先わからない人もたくさんいるし。なので、ワニトンマさんに私信でした。ごめんなさい。

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