手を描いてみましょう

Bones,Sketches — yam @ 2月 18, 2011 12:22 am

先日twitterでこんなことをつぶやきました。

手をうまく描くコツは、丸い板に五本の指が生えている物として描くのではなく、手首から5方向に分かれている長い指があって、最初の関節までは肉が間を埋めているものとして描く事だ。(Feb 10, 1:00am

これに対し、「ほんとだ。生まれて初めて手が描けた気がする」というコメント付きで、米国在住の木田泰夫( @kidayasuo )さんが描いて、公開してくれたのが上のスケッチです。右の絵は「丸い板に五本の指」として描かれていますが、左は「手首から5方向に分かれている長い指の間を埋める」ように描かれています。左の絵の方がずっと手らしく見えますね。

木田さんは、「ことえり」をはじめとするアップルの日本語環境の開発責任者であリ、アップルを代表する技術者の一人です。おそらく絵を描くことに慣れてはいらっしゃらないと思うのですが、即興で、実に飲み込みの良いスケッチを描いてくれました。以前にも私は「形を描こうとしてはいけない。構造を描くことによって自然に形が生まれる。」などと言って来ましたが、このスケッチは骨のつながりを理解して描くことの大切さを伝えてくれる好例だと思います。

私たちは、しばしば「見たままに描く」ことにこだわります。しかし私たちの眼がカメラと一番違うのは、入って来た図像をそのまま焼き付けるのではなく、直ちに対象の意味を理解し、それに解釈を加えて記録することです。

視覚情報を直ちに解釈することは私たちが世界を理解する上ではとても大切なことなのですが、その解釈が絵を描くことを邪魔する場合もあります。手を見て丸い板に五本の棒が生えているものと理解することは、実生活上は実用的かもしれませんが、指と指の相互関係を見失わせます。そこで、見えない部分の解釈を付け加えることによって、指と指、指と手首の関係がはっきり意識させると、手らしい手を描くことができるのです。

このつぶやきに対し、恐竜などの古生物の図鑑のイラストなどをたくさん描いていらっしゃるイラストレーターの小田隆( @studiocorvo )さんから、「見かけ上、手の甲側からと手のひら側からでは、指の長さが違っている」ことも重要だという助言をいただきました。下記のブログで、模範ともなる素晴らしい手の絵を見ることができます。

鴉工房: 手を描く1

ツイッターがきっかけになって、海外の人もプロの人も一緒に手の絵を描いてみる。そんなつながりをうれしく思った夜でした。

(イラストは木田さんのflickerページからの転載です)

アップルまみれ

Mac & iPhone,Works — yam @ 2月 5, 2011 1:55 am

私がMacintosh に出会ったのは1986年、日本語化されたばかりのMac plusでした。もちろんそのGUIにも感動しましたが、ハードウェアの仕上がりも、それまで私が接したパソコンとはずいぶんレベルが違いました。

あらゆる方向から、ちゃんとデザインされており、家電やオーディオ機器では当たり前だった醜い背面がそのマシンにはありませんでした。冷却スリットやフロッピーのスロットなども一環した思想でデザインされていました。キーボードやマウスをつなぐコネクタもシステム化されており、ともかく全体を「こった造り」が大好きな人間が作った事は、歴然だったのです。

その美意識に惚れ込んで24年、何十台というMacを使って来ました。おそらくは私の人生で最も多くの時間をともに過ごしたブランドでしょう。妻も子守りをしながら、SE30に向かっていましたし、娘も言葉を話す前からマウスを触っていました。

フリーのデザイナーとして駆け出しの頃の私は、13インチのモニターを抱えてプレゼンに出かけていました。世の中は、パソコン上のスライドショーなど見た事もない人たちばかりだったので、それだけでプレゼンの効果は抜群でした。日本で唯一、イラストレータのデータを電子写植機で出力してくれる店が渋谷にあって、そこで作った大判印画紙の四面図を持参してプレゼンした自動車会社では、図面を見るために別の部署から人が集まって来たりしました。その日本初の出力ショップの店長さんは後にDTPのカリスマと言われ、多摩美の教授にもなられた猪股裕一さんです。

その後、アップル本社と仕事をする機会にも恵まれ、その美意識の根幹に触れたと思える瞬間も経験しました。ここ十年ほどは、私の周りには常時アップル製品が少なくとも7、8台はある生活が続いています。

間違いなく私の生活は、スティーブ・ジョブズによって一変し、その後ずっと御世話になりっぱなしです。彼が去ってアップル製品の魅力が陰った時期もあったけど、すぐに戻って来てくれました。ちょっと心残りなのは、直接にスティーブ・ジョブズその人と話した事がないことですね。一度だけ直に見る機会はありましたが…。

最近二つ、アップルについての素敵な記事を見ました。一つはMacテクノロジー研究所」というブログの記事。もう一つはマイクロソフトのページ(!)にあるコラム。どちらもアップルとスティーブ・ジョブズへの愛に満ちた文章です。

「Mac発表記念日にスティーブ・ジョブズの休職を憂う」

Apple’s eye No. 280 – 止め処なく躍進を続ける世界2位の企業、アップル~その強さの秘密は、本質主義の「いいデザイン」』

スティーブ・ジョブズの引退が噂さされています。彼が引退したらアップルはダメになるんじゃないかと多くの人が憂い、私もそう思わなくはありません。しかし願わくは、ジャガーやポルシェ、BMWのように、永く尊敬され、愛されるブランドになって欲しいと思います。そしていつか、若者達の前でもったいぶって言いたいのです。
「スティーブがいた頃はもっと凄かったんだ…」

(図は1997年に作ったデスクトップテーマ Drawing Board 用の壁紙です。)

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