初めてのルーブル

Exhibition,Technology and Design — yam @ 9月 22, 2011 6:24 am

ルーブル美術館という世界で最も有名な美術館に、初めて行ってきました。何度かパリには来ているのですが、「丸3日はかかる」とか「人類の至宝」とか、そんな重たい言葉に気後れして、何となく見送ってきたのです。今回、仕事でパリにひと月滞在する機会ができたので、ふらりと行ってみました。

で、一番感動したのは、いまさらですが、写真の「サモトラケのニケ」。撮影が許可されている美術館での楽しみのひとつは、彫刻の写真を撮る事です。絵画は、自分で撮るより遥かに再現性の高い写真が出回っているので、あらためて自分で撮る意味を感じないのですが、彫刻は自分で動き回って、自分が一番快感を感じるアングルを記録する事ができます。ニケはどこから撮影しても絵になるのですが、私の萌えアングルは後ろ姿でした。

この彫像がなんでこんなにかっこいいのかと言えば、それはもう、首やら手やらをもぎ取ってくれた偶然のすばらしさにつきます。人の体に翼をつけた像は世の中にたくさんありますし、完全なままなら、かえってこれに勝る彫刻はあるのかもしれません。でもこの彫像は、前傾した胴体と、風になびいてまとわりつく布と、翼だけが残りました。その結果生まれた、あり得ないほどの緊張感とスピード感。

なんて今更、たかがデザイナーが力説するのも滑稽な気もしますが、もう少し続けます。

実は私にとって、移動体の後ろ姿はいつも萌えポイントです。飛行機でも乗用車でも、斜め後ろから見たときが、最も移動体らしくなるように思えるのです。ニケは、頭と腕を失う事で、人に羽根を付加したキメラではなくなり、移動体としての純粋さを得たのではないでしょうか。空を飛ぶのに腕は要りませんからね。

詩人マリネッティは、未来派宣言で「咆哮する自動車はサモトラケのニケよりも美しい」とか書いたらしいですが、よく言ったものだと思いました。自動車もデザインした事がある身としては、あんなかっこいいものは、ちょっとやそっとじゃ超えられないと思うぞ、と突っ込みたくなります。

ついでに言うと「モナリザ」も良かったです。今まで見たダ・ヴィンチの作品では、どちらかと言えば素描の方が好きだったのであまり期待していなかったのですが、なんか光ってました。あんなに胸と手元を照らす光が強烈な絵だったなんて…。

やっぱり絵画も彫刻も実物じゃないとわからないものです。でも若いときにこの体験をしておきたかったとは、特に思いませんでした。むしろ色々経験を積んでから、名だたる傑作に会うのも悪くないと。だから若いアーティストやデザイナーにルーブル詣でを勧める事は、これからもしない事にします。有名なものばかり先に見てしまったら、後がつまらないじゃないですか。

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