誤差の話

Mac & iPhone,Technology and Design — yam @ 12月 12, 2012 4:21 pm

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小さな差が積み重なって思わぬ大きな差になることはよくあることですが、モノを作るときにも寸法誤差の積み重ねは、とても重要な意味を持ちます。

例えば、カステラがきっちり入る桐の箱を作ることを想像してみましょう。理想は隙間なくぴったり納まることですが、人の手が作るものでは、なかなかそうはなりません。カステラを切るときに、菓子職人さんがどんなにがんばっても最大1ミリの誤差は防げないとしましょう。一方、箱職人さんが作る桐の箱も±1ミリぐらいの誤差は出るとします。どちらも20センチで作ってくれと依頼しても、201ミリになったり199ミリになったりする可能性があるということです。

さて、カステラが箱に入らないという困った状況にならないためには、それぞれの職人さんにどのように依頼すればいいのでしょうか。答えは、箱をカステラより2ミリ大きく(箱は201ミリ、カステラは199ミリに)作ってくれと依頼することです。そうすればカステラが1ミリ大きくできて、箱が1ミリ小さくできた時でもちゃんと納まります。

その結果、まあ、カステラの周囲に1ミリの隙間があいてしまうのはしょうがないかと思ってると、実物ができてきた時にまたビックリしてしまいます。最初から2ミリの差をつけてあるのでたまたま小さくできてしまったカステラと、たまたま大きめにできてしまった箱が組み合わされた時には、4ミリの差になります。カステラが片方によってしまったら4ミリもの隙間があいてしまって、最初の思いとは随分ちがうものができてしまいます。

もちろんこれを防ぐためには、もっと精密に仕事をしてくれる人を捜すのが常道ですが、それが難しい場合でも、方法がないわけではありません。箱とカステラひとつ一つの大きさを見極めて、大きめのカステラは大きめの箱に、小さくできてしまったカステラは小さめの箱に入れることです。それぞれの寸法を計って組み合わせさえすれば、両方とも20センチに作るよう依頼しておいても、ぴったり合う相手を見つけることもできるでしょう。計測の精度さえ上げれば、隙間を製作誤差以下にすることも可能ということです。

実はiPhone 5の製造過程では、そういう方法が採用されています。アップルのサイトを見るとこんなことが書いてあります。

製造工程の途中で、iPhone 5のアルミニウム製のボディは、一つずつ2台の強力な29メガピクセルのカメラで撮影されます。その後、機械が画像を検証し、725種類のインレイ(ガラス)と照合します。こうして、一つひとつのiPhoneに最も精密に適合するインレイを見つけるのです。

なんで725種類ものガラスを作るんだろうと思った人がいるかもしれませんが、実際は、出来上がった製品の寸法を計測して725パターン(縦×横で29×25パターン?)に分類してマッチングしたということではないかというのが私の推測です。

「できたものを合わせる」という作り方は、手作り品では珍しいことではありません。例えばお椀とふたを作るときには、それぞれに作って、合うものをセットにするということも実際におこなわれています。アップルは、この「合う相手を探す」ひと手間を自動化して、1億台以上の出荷が見込まれるiPhone 5の製造に応用したということです。

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