ゾンビが不気味なのは、ゾンビが少数派の間だけ

Exhibition,Genius,Technology and Design — yam @ October 7, 2010 3:41 pm

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先日、ジェミノイド(別名コピーロボット)の開発で有名な大阪大学の石黒浩教授とトークショーを行いました。

石黒さんは、メディアのどの写真を見ても黒い服で写っています。「いつも黒を着ていらっしゃるので、私は白にしました」とご挨拶をした所、「服装は他人が最も認識しやすいアイデンティティじゃないですか。それを変えようとする理由がわからん。」といきなりがつん。

“これも私と認めざるをえない”展の一角に設けられた特設会場は大盛況でした。以下に印象に残った石黒さんの言葉を拾ってみます。

  • 人間は自分の事を他人ほど知らないんですよ。
  • 我々と自分の体とのつながりなんて、わずかなものです。呼吸したり歩いたりしていても、体が勝手にやってくれているのを時々確認してるだけじゃないですか。そんなもの機械に置き換えられるに決まってます。
  • 私はロボットを操っていると思ってる。でも思ってるだけで、私も何かに操られてるかもしれない。私を動かしているものは結局環境からのインプットだから。
  • けしからん事に誰もジェミノイドを送り込んだ会議に出張費を払ってくれない。生身の私が来ないとダメだというけど、今まで私に脳があるか、内蔵があるかなんて確かめた事ないじゃないか。
  • 不気味ですよね。でもあなたがこれを人だと認めているから不気味なんですよ。
  • ロボットが人間そっくりになる前に、人間の定義が変わってしまうんじゃないでしょうか。ゾンビを不気味だと思うのはゾンビが少数派の間だけで、みんながゾンビならそれが人間ということになります。
  • ジェミノイドは、人よりも人間らしく死にます。
  • ロボットの表情が本物ほど豊かじゃないというのは間違いです。お金と時間さえあれば、人より遥かに表情豊かなロボットを作ってみせます。
  • コンピュータは信号をクリアにしようとするから莫大な電力を必要とする。脳はノイズをノイズのままで有効に利用するから,あんなに効率がいい。
  • 科学者には「倫理」はないです。科学の成果はいつも二つの面がある。原子力は人を殺すし,電気も作る。それをどう使うかは社会に依存していて、全く新しい技術がどう使われるかなんて事が分かるはずがない。それを予想して一々歯止めをかけたら何も進まなくなる。倫理などと口にする科学者は本物じゃないと思います。

トークショーの間、私はメモを取ることができなかったので、上の語録には記憶違いがあるかもしれません。参加した方のコメントによる指摘歓迎です。

ロボット工学には「不気味の谷」という有名な言葉があります。人型のロボットは、人に似れば似るほど不気味になってきて、人と区別がつかなくなる直前には深い谷があるというものです。石黒さんは「人が人と認める要素」を確かめながら、正面から「不気味の谷」を渡ろうとしています。「もう一番深い所は超えました」とおっしゃる石黒さんの力強さが印象に残った対談でした。

写真はATRのGeminoidサイトから。

奇人天才シリーズその6:吉岡徳仁さん

Exhibition,Genius,Works — yam @ September 26, 2010 2:40 pm

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吉岡徳仁さんとの出会いは、2001年の日本科学未来館のオープニングイベント、「ロボット・ミーム」展の会場構成を依頼したことでした。

きっかけはその前年のISSEY MIYAKE Making Things展でした。30代前半だった吉岡さんの展示には、手垢にまみれた「スタイリッシュ」への断固たる決別があり、それに深く感銘を受けたのを憶えています。

「ロボット・ミーム」展は、ロボットと人々の新しい交わりを提示する事を目的とした、藤幡正樹氏と松井龍哉氏と私の3人展でした。私は二人を説得し、吉岡氏の事務所に直接電話で会場デザインを依頼しました。

電話から二月後に彼が提示したアイデアは、マネキン人形を型にして人型レリーフのポリカーボネートパネル700枚を使って、会場に巨大な迷路を作るというものでした。

吉岡さんはとてもシャイな人で、多くを語りません。提案の時も、スタッフの女性が説明し、ご本人はただ穏やかに立っています。しかし、モデルや試作品を眺める吉岡さんの視線からは、彼が自らの案を心から愛しているのだということが伝わってきました。提案は、コストを押さえつつも巨大な空間を巧みに利用して、私たちのビジョンをより大きく開花させた見事なものでした。

おだやかな吉岡さんには、タイトルの「奇人」の印象はありませんが、その後、具体的な打ち合せに入って、やはり一筋縄では行かない面も見せてくれます。

あるとき私の作品であるCyclops(写真)の照明の事で、彼の意見と衝突しました。その時は「わかりました」と引き下がってくれたのですが、後日、施工図面を見ると私の要求が反映されていない事に気がつきました。多分ミスなのだろうと思って電話すると「いや、そのライトはいらないと思います」というはっきりとした拒否。そこでその必要性をさんざん訴え、了解されたと思って電話を切ります。2週間後の最終の施工図をみるとやはりない。

少し頭に来て会いに行くと、にこにこしながら「やっぱり照明いらないと思います」と悪びれもせず繰り返すのです。彼の頑固な一面を見せつけられて、私は提案しました。「現場で決めましょう、照明を取り付けられる穴はあけておいて下さい。」

「ロボット・ミーム」展は2001年12月から2002年2月まで開催されました。展覧会の初日にCyclopsの前にじっと立っている吉岡さんを見つけて、私は労をねぎらう言葉をかけました。吉岡さんはただ笑みで答えて一言。

「この場所が一番好きです。」

くだんの照明は私の要求通りに設置されていました。だから言ったじゃないかと喉まで出かかっていた言葉は、彼の幸福そうな横顔にかき消されてしまいました。

その後の吉岡さんの活躍は言うまでもないでしょう。マテリアルボーイと呼ばれる天才の、文明が生み出す物質への深い洞察は、世界の人々を魅了し続けます。吉岡さんの展示を施工した人達に会うと、口を揃えて「いやあ大変でした」と言います。その度に、吉岡さんの穏やかな、しかし決して妥協しない笑顔が思い出されます。

奇人天才シリーズその5.5:檜垣万里子さん

Bones,Genius,Mac & iPhone — yam @ July 21, 2010 5:39 pm

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分解大好き万里子さんは慶應義塾大学脇田研究室の出身で、学生のときに Ephyra 製作チームのリーダーでした。その頃からすっかりメカの好きな学生になり、人数の少ない9月卒ながらSFCを首席で卒業して、私の元に来てもう三年になります。

「骨」展ではアシスタントディレクターを務め、私と一緒に洗濯機の骨を探して工場を隅々まで歩きましたし、椅子も携帯電話もPCMレコーダーも分解しました。クロノグラフの百以上ある微小部品をひとつ一つアクリルの板の上に並べたのも彼女でした。

MacBook Airの分解でも、彼女に指揮を取ってもらいました。元に戻すことができたら万里子さんのものにしても良いという約束で始めて、元に戻したときには4時間が経っていましたが、今でも元気に動いているようです。

先日、iPhone 4の実物を初めて見たときの第一声は、「このネジに合う工具はなかなか手に入らないんですよ」。もう十分、奇人の仲間入りでしょう。天才ぶりはまだ見せてくれてはいないのですが、天然ではあります。

いまさらながらiPhone 3Gのボディの秘密に気がつきました」という記事も彼女が自分の3Gを分解したことがきっかけでした。ひとつ一つ部品を楽しそうに見せてくれる彼女の報告を聞いているうちに、ボディの不思議なツールマークに気がついたのです。

この記事は大変大きな反響をいただき、桁違いのアクセスがあり、コメント欄でも議論白熱です。今のところ、おおざっぱに言うと、「普通はやらないことだが、こう考えると筋が通る」という私の主張に対して「アップルの意図はともかく、常識ではこう見るべき」という反論が技術屋さんから寄せられているという構図です。

今のところ「常識」の範囲内に、アップルが何故そんなことをしたのかを明確に説明できるストーリーは見当たらないと感じています。私は、一見非常識に見えても、筋が通っていると感じた考え方をいつも採用してきました。わくわくするブレークスルーはそこにしかないからです。

問題のツールマークをさらに拡大した写真をアップしておきます。なにが正しいかはアップルのみぞ知るですが、この議論自体を大いに楽しみたいと思います。自分で確認しましたっていう、第2、第3の万里子さんの意見が聞きたいですね。

ちなみに、30日にアップルストアでトークショーをやります。場所が場所ですが、このネタを扱う予定はありませんので、よろしくです。

奇人天才シリーズその5:佐藤雅彦さん

Exhibition,Genius — yam @ July 17, 2010 3:45 pm

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佐藤雅彦研究室は、慶應義塾大学SFCでは一つの伝説になっています。大変な人気研究室で、所属を希望する学生は百人を超え、毎学期大教室で選抜試験が行われたそうです。試験科目には数学も含まれていて、佐藤研究室に入ることの方がSFCに入る事よりも遥かに難しいと言われていました。

佐藤さんと学生達が生み出した様々な傑作はここで紹介するまでもないと思います。「動け演算」、「ピタゴラスイッチ」、「日本のスイッチ」、「任意の点P」、「フレーミー」、「差分」…。一昼夜かけてピタゴラスイッチを作る合宿などもあったそうです。間とリズムが印象的な傑作CMをたくさん世に送り出した佐藤さんですが、研究室では日常感覚を数学的抽象で研ぎ澄まし、心にひびくアニメーションや絵本を作りました。

授業も大盛況で、300人が入る教室はいつも満席。佐藤さんが右手にケガをして左手で黒板に文字を書いていたとき、文章の途中で黒板の端まで来たらそのまま横の壁に文字を書きつづけていったというような逸話も残っています。

佐藤雅彦さんは、人見知りをされる事でも有名です。何度かお会いしたことがあるのですが、毎回、初対面のよう。ありきたりの話題にはほとんど関心を示さない方ですし、すぐに黙ってしまわれるので、たちまち間が持たなくなってしまいます。ところが、ご自身がそのときに一番関心を持っている話題にこちらが触れると、突然関を切ったように早口で話しはじめます。その瞬間に居合わせた人は、この人の天才的思考の一端に触れる幸運に恵まれます。

先日お会いした時は、計画中の展覧会のアイデアについての怒濤のお話に出くわしました。自分の境界線、属性、自分がカテゴライズされる事の意味、鏡の向こう側の自分、自分の一部が他人に利用される事の恐怖、などなど、圧倒されるような思索の連鎖。

そのときの話題が、「これも自分と認めざるをえない」展。21_21 DESIGN SIGHTで16日から開催されました。入場者は最初に自分を登録して、様々な体験型展示物の間を歩いて回ります。骨展でもお世話になったコーディネーターの田中みゆきさんいわく「健康診断」あるいは「注文の多い料理店」。人々が、床に引かれた矢印に沿って、自分に関する何かを教えてくれるさまざまな装置を順に巡って歩く様は、確かに人間ドックのようです。

先日の内覧会は大変込み合っていたので、佐藤さんは、多くの人がちゃんと体験できているかどうかが気になって走り回っていました。込み合ってない平日の昼間がねらい目です。

あ、ひとつだけ。自分の名前を登録するときには、ちゃんと氏名を漢字で入れましょう。その方がより深く自分と向き合えそうです。

奇人天才シリーズその4:石井裕さん

Genius — yam @ January 23, 2010 11:26 pm

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奇人呼ばわりするにはあまりに有名な「世界の頭脳」を、このシリーズに取り上げるのはちょっと気が引けます。

人とコンピュータの関わりを、ディスプレイから実世界に引きずり出す革新的な技術思想 “Tangible Bits” を生み出し、世界中のインターフェースデザインに大きな影響を与えたMITメディア・ラボ副所長の石井裕さん

彼の早口は有名ですが、実際に会って話すと、壮大な論旨の中に多彩な視点を折り込み、事例や引用は先端技術から政治、古典文学に及び、「めくるめく」という言葉がぴったりのストーリーが展開されます。しかも最先端の技術コンセプトや哲学を、普段から英語で考えている方なので、興に乗ってくると90%が英語。

「ところで」と言う代わりに”By the way”とおっしゃるようになったら、後はもう「ルー語」状態です。一応日本語の形式だけは守ってくれるのですが、日本語と言える部分はほとんど「てにをは」だけ。しかも「ルー語」と違って難解な英単語のオンパレード。ある時、思わず「英語の勉強になります」と感想を言ったら、即座に「英語だけですか」と言ってしかられました。

その口調だけでなく、石井さんは私たちとは住んでいる時間が違うのではないかと思うぐらい、何をするのもハイテンポです。NHKの「プロフェッショナル・仕事の流儀」でも紹介されたように、実際いつも走っています。その番組を見た数日後にお会いした時も、ちゃんと走って現れてくれてうれしくなりました。

そんな石井さんの来日にあわせて、先週は食事会をセッティングしました。参加してくれたのは、コンセプターの坂井直樹さん、ロボット博士の古田貴之さん、慶應大学で私と同僚の脇田怜さん。案の定、ハイテンションぶりで奇人に属する古田さんと、話題豊富な坂井さんと三つどもえで、7時にスタートして気がついたら12時。怒濤の5時間でした。

最後の方で石井さんが、十歳下の古田さんに贈った言葉が印象的でした。

「あなたのような立場の人が、理想に酔った宗教者のように、一週間も寝ない事に象徴されるような自己犠牲を良しとする発言をするべきではない。宗教家古田貴之とリアリスト古田との落差を埋めるために、ドーピングを重ねたような状態で無理に走り続けていくと、いつか必ずこわれます。実績を持つあなたがそうなったら、多くの人を巻き込んでしまう。あなたには古田貴之を信奉する若者がたくさんいる。そうした人たちを育てて欲しいし、百年後を変えるような仕事をして欲しいから、どうか体を大切にしてください」

さすがの古田さんも「心に響きました」と神妙に。いつも走っている石井さんが無理に走るなと諭す、その心優しい言葉に私も感動してしまいました。

奇人天才シリーズその3:古田貴之さん

Genius,Works — yam @ November 18, 2009 3:10 am

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190センチに近い長身で人間とは思えないほど細身、ぎょろりとした目、異常にハイテンションでマシンガンのようにしゃべる。それが初めて合ったロボット博士の古田貴之さんでした。 (more…)

奇人天才シリーズその2:土佐信道さん

Bones,Genius,Works — yam @ October 15, 2009 3:02 am

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奇人天才シリーズ第2弾です。ここでも何度か紹介させていただいていますが、やはり土佐信道さんを上げないわけには参りません。 (more…)

奇人天才シリーズその1:猪子寿之さん

Genius,Works — yam @ October 10, 2009 10:24 am

PROJECT F interface design from TEAMLAB on Vimeo.

Team Labの猪子寿之さんは、かなり奇人の部類に入るでしょう。ネット上でも、野性的とか天才とか、あるいはヘンタイとか、こわれてるとかいろいろな形容に事欠かない人です。今回のプロジェクトFのミーティングの中での彼の台詞を拾ってみます。私の記憶なので違っていたら猪子さん、すみません。 (more…)

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