奇人天才シリーズその6:吉岡徳仁さん

Exhibition,Genius,Works — yam @ 9月 26, 2010 2:40 pm

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吉岡徳仁さんとの出会いは、2001年の日本科学未来館のオープニングイベント、「ロボット・ミーム」展の会場構成を依頼したことでした。

きっかけはその前年のISSEY MIYAKE Making Things展でした。30代前半だった吉岡さんの展示には、手垢にまみれた「スタイリッシュ」への断固たる決別があり、それに深く感銘を受けたのを憶えています。

「ロボット・ミーム」展は、ロボットと人々の新しい交わりを提示する事を目的とした、藤幡正樹氏と松井龍哉氏と私の3人展でした。私は二人を説得し、吉岡氏の事務所に直接電話で会場デザインを依頼しました。

電話から二月後に彼が提示したアイデアは、マネキン人形を型にして人型レリーフのポリカーボネートパネル700枚を使って、会場に巨大な迷路を作るというものでした。

吉岡さんはとてもシャイな人で、多くを語りません。提案の時も、スタッフの女性が説明し、ご本人はただ穏やかに立っています。しかし、モデルや試作品を眺める吉岡さんの視線からは、彼が自らの案を心から愛しているのだということが伝わってきました。提案は、コストを押さえつつも巨大な空間を巧みに利用して、私たちのビジョンをより大きく開花させた見事なものでした。

おだやかな吉岡さんには、タイトルの「奇人」の印象はありませんが、その後、具体的な打ち合せに入って、やはり一筋縄では行かない面も見せてくれます。

あるとき私の作品であるCyclops(写真)の照明の事で、彼の意見と衝突しました。その時は「わかりました」と引き下がってくれたのですが、後日、施工図面を見ると私の要求が反映されていない事に気がつきました。多分ミスなのだろうと思って電話すると「いや、そのライトはいらないと思います」というはっきりとした拒否。そこでその必要性をさんざん訴え、了解されたと思って電話を切ります。2週間後の最終の施工図をみるとやはりない。

少し頭に来て会いに行くと、にこにこしながら「やっぱり照明いらないと思います」と悪びれもせず繰り返すのです。彼の頑固な一面を見せつけられて、私は提案しました。「現場で決めましょう、照明を取り付けられる穴はあけておいて下さい。」

「ロボット・ミーム」展は2001年12月から2002年2月まで開催されました。展覧会の初日にCyclopsの前にじっと立っている吉岡さんを見つけて、私は労をねぎらう言葉をかけました。吉岡さんはただ笑みで答えて一言。

「この場所が一番好きです。」

くだんの照明は私の要求通りに設置されていました。だから言ったじゃないかと喉まで出かかっていた言葉は、彼の幸福そうな横顔にかき消されてしまいました。

その後の吉岡さんの活躍は言うまでもないでしょう。マテリアルボーイと呼ばれる天才の、文明が生み出す物質への深い洞察は、世界の人々を魅了し続けます。吉岡さんの展示を施工した人達に会うと、口を揃えて「いやあ大変でした」と言います。その度に、吉岡さんの穏やかな、しかし決して妥協しない笑顔が思い出されます。

5 Comments »

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  2. 山中さん

    ブログに登場する方々の「奇才ぶり」、様々な奇才が在りますが
    その奇才の結果は見る人を魅了し続ける物ばかり。
    今回もなんだかくすぐったいような感じです。
    参考にしたいプロセスでした。

    コメント by Tomoko ARai(PUNTO_GRAFICA) — 9月 27, 2010 @ 12:20 am
  3. tomokoさん

    いつもコメントありがとうございます。
    吉岡さんの場合、彼の人となりを記述しても、その創作の秘密には
    少しも近づけない気がしたので、書くかどうか迷っていました。
    しかし、私が知る人の中でも飛び抜けて天才であることは間違いありません。
    吉岡さんの創作の本質は、むしろ今日の午後に私がつぶやいたことの方に
    あるような気がしています。

    コメント by yam — 9月 27, 2010 @ 1:55 am
  4. <補足>

    吉岡さんは、しばしば膨大な量の人工素材を使って、人工のものとは思えない、ある種の気象現象のような景観を作ります。人が作るマテリアルが持つ高い抽象性に着目し、それらをピクセルのように使って、雄大な現象を描き出すのです。

    ほとんど自然素材を使わないことには、私たちが作る膨大な人工物が、やがては第2の自然とでも言うべき世界を構築して行くという、壮大なオプティミズムが見て取れます。

    しかし、一方でその人工空間は人を寄せつけない(そこでは暮らせない)抽象性を有しており、無機化合物の永遠性(ある種の死)も感じさせます。彼は、そうした自然と人工の狭間にある(あるいは生と死の狭間にある)静寂な世界を描き出すことによって、私たちの心の根底を揺さぶります。

    吉岡さんの人工物と自然の入れ子構造に対する、ある種の文明批評とも言える直感はプロダクトデザインにも及びます。ベーシックな人工素材でできた家具や照明器具を、パンや豆腐などのありきたりな加工食材になぞらえるネーミングにも現れていると言えるでしょう。

    吉岡徳仁という才能が私たちをどこへ連れて行ってくれるのか、本当に楽しみです。

    コメント by 山中俊治 — 9月 27, 2010 @ 2:24 am
  5. うふふ。このミーム展の展示のときに、ウチの嫁が吉岡事務所にいたんですが、このお人形の体系が彼女を型にしたのではないかと話題になっていました。。。。ちょっとやぼったい体系なんでとても失礼がっていました!

    コメント by kentarouster — 9月 27, 2010 @ 11:00 am

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