気がついたら「豪華すぎるトークショー」になっていた件

Exhibition,SFC,Technology and Design — yam @ 11月 21, 2011 2:21 am

11月23日にこんなトークショーがあります。

出演者は、あいうえお順で

不思議な金属生物のような楽器を使って、世界のあちこちで前衛的なパフォーマンスを行い、大ヒットしたオタマトーンなどの不思議な製品を作り続ける明和電機社長の土佐信道さん

ユニクロやAUなどのクールなウェブをデザインし、インフォバー2の操作画面をデザインし、「デザインあ」などの番組も手がけるインターフェースデザイナーの中村勇吾さん

JAXAで様々な衛星の開発に携わる一方で、フィクションの技術考証によりコアなSFファンの間でも「野田司令」の愛称で知られる宇宙機エンジニアの野田篤司さん

「日蝕」により23歳という若さで芥川賞を受賞し、その後も「葬送」「決壊」「ドーン」など幅広い小説を書き続け、コミックモーニングでも「空白を満たしなさい」を連載中の小説家、平野啓一郎さん

とても忙しい方々なので、出演を依頼したときには、きっとお一人ぐらいは予定が合わないだろうと覚悟していたのですが、皆さん参加してくれることになって、1時間半ではとても皆さんの魅力を引き出せないような豪華すぎるトークショーになりました。

トークショーのタイトルは「未知の領域へ広がるデザイン」。実は4方ともデザインについては深く語り合ったことのある人たちで、「デザイン」という言葉をとても大切にしてくれています。

一方、どの方も普通の意味の「デザイナー」ではありません。

土佐さんは、過去にもサバオやノックマン、ジホッチ何ど様々な製品を開発していますが、そのデザインは決してグッドデザインには収まらず、デザインとアートの垣根をガラガラ壊してくれる人。

肩書きにデザイナーとあるのは中村さんだけですが、ご存知のように中村さんは、プログラムベースのとても深い所で人と情報の出会いを設計し、従来の「デザイン」の枠には全く収まらない人です。

野田さんは、宇宙機エンジニアでありながら、スペースシャトルを形ばかりの失敗作としてばっさりと切り捨てる一方、宇宙機は美しくなくてはならないと主張し、とても魅力的な絵も描く多才な人。

平野さんは、小説「かたちだけの愛」ではプロダクトデザイナーの生態を見事に書き表し、ご自身の小説の構造や読みやすさについても「小説のデザイン」という言葉で明確に語ってくれます。

そんな4人と、「デザインの枠に収まらないデザイン」について語り合ってみたいと思います。短い時間の中ですが、皆さん個性的かつ知性あふれる方々なので、興味深いお話になることまちがいなし。お時間のある方は是非お立ち寄りください。

上の絵は4人のツイッターアイコンを、アプリ風にアレンジしてみたものです。

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慶応義塾大学SFC  Open Research Forum 2011 プレミアム・セッション

「未知の領域へ広がるデザイン」

場所:東京ミッドタウン 4F カンファレンスルーム9
日時:11月23日(水・祝)12:00~13:30
入場無料 事前登録不要

ミッドタウンホールでは研究室の研究成果を展示しています。そちらも合わせてご覧ください。

http://orf.sfc.keio.ac.jp/

「失われたものの補完」を超えて

SFC,Technology and Design,Works — yam @ 11月 14, 2011 12:02 am

写真は、開発中の女性用義足のモックアップです。現時点ではあくまでもイメージモデルであり、まだこれで歩くことはできませんが、これをトリガーとして開発を進めようとしています。開発に協力してくれている女性は、板バネの義足を使って走るアスリート。きれいな人なので、足を作るのも緊張します。

義足は紀元前の昔から作られてきました。ただの棒のような物も多く使われて来ましたが、一方で、常に本物に似せるべく芸術品に近い物も製作されました。義足は失われた下肢を補完するものであり、その目的には、歩行機能の回復だけでなく外観の回復も含まれているのです。

作り方が近代化したのは第一次世界大戦直後。大量の傷病兵に対応しなければならなったヨーロッパで、それまではひとつ一つ手作りだった義足製作がシステム化されます。パーツはモジュール化され、金属パイプと量産の接続パーツを組み合わせて、低コストで大量に作られるようになりました。その結果、機能的には向上したものの、外観は本物からは遠い物になってしまいました。

そこで現在では、その金属骨格に肌色のスポンジとシリコンのカバーをつけて外観を似せた、コスメチック義足が作られています。中には、指ひとつ一つまで再現された精巧な物もありますが、それでもよく見れば質感の差は隠せません。残念ながら多くの切断者たちが、現状のコスメチック義足に満足していないのは事実です。日本には義足使用者は8千人ほどいるらしいのですが、ほとんどの人はコスメチック義足を使わず、金属の骨格をそのまま服の下に隠しています。いつかは本物そっくりで、機能的にも十分な物が作れる時代が来るのかもしれませんが、それはまだ先のようです。

今、私たちは、違う道を模索しています。見てもわかる通り、本物の足にはまったく似ていません。人工素材で作られる機能的な人体としての、人工的な美しさを目指しました。一方、左右のバランスをとるためにシルエットとしては人体を引用しています。人の体にはリズミカルな「反り」があるので、カーブしたパイプを使っています。ふくらはぎの部分の白い着脱式アタッチメントは、パンツをはいたときに足の形を自然に見せるためのパッドのようなもので、これも運動機能には全く寄与しないのですが、足の形をきれいに見せるための重要なパーツです。

立つことしかできないモックアップなのですが、それでも彼女はこれを喜んでくれ、何時間も写真撮影につきあってくれました。いつかは、こんな義足で町を歩く人も普通に見かけるようになり、友人たちが「その足いいね。」って自然に言えるようになることを夢見ています。

義足デザイナーの小説を書いた作家の平野啓一郎さんと対談では、エイミー・ムランという有名な両足義足のモデルさんが話題になりました。彼女が「私には12本の足がある。身長だって変えられる。」と笑いながら話す映像は、とても印象的でした。

そう、そろそろ「失われたものの補完」という考え方から離れて、もっと自由に表現しても良いはずです。

*平野さんとの対談第5回
「義足は道具か、それとも身体か──喪失が新しい創造の場所になる」 http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20110901/282540/

*写真の義足は、11月22日、23日の二日間、六本木のミッドタウンで開催される慶応義塾大学SFCの研究発表会、OPEN RESEARCH FORUM 2011で展示されます。
SFC Open Research Forum 2011 – 学問ノシンカ
http://orf.sfc.keio.ac.jp/

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