世界は円柱でできている
ポール・セザンヌは友人への手紙の中で、「自然を円柱、球、円錐として扱え」と書いたそうです。その意味については諸説あるようですが、私が工業製品のデザインスケッチを描くときにも、この3つの立体が起点になる事は確かです。工業製品の場合、モーターやヒンジやギヤなどの動く所はほとんど中心軸を持つ回転体で、大小さまざまな円柱や円錐が折り重なって主な構造体を作っています。四角い立体のコーナーの丸みも、立体として捉えればたいてい1/4円柱になります。
人体の場合も、体の各部を円柱、球、円錐に置き換えて構成して行くと描きやすくなります。実際、漫画の入門書などにもそんなことが書いてある。しかしこれだと、デッサンの基本の話でしかありませんね。セザンヌのこの言葉は、美術の教科書には、キュビズムの夜明けとして引用されているようですし、上の絵などを見るとこの時代としては新しい形の見方だったのかもしれません。でも、実はセザンヌも、単に友人にデッサンのコツを教えていただけだったりして。
これに関連して、科学ジャーナリストのこばやしゆたかさん(@adelie)さんのつぶやきで、あることを思い出しました。「象の時間ネズミの時間」で有名な本川達夫さんは、全ての生物の体は「円柱形」であると主張しています(歌まで作ってる!)。発生学者の倉谷滋さんも以前お会いしたときに、「節のある円筒が生物の基本構造だ」と話してくれました。福岡伸一さんも著書の中で、「人間は考える管」であると。
確かに生き物の体は、「管」が基本になっています。ミミズのような非常に原始的な動物は口から食物を入れて後ろから排泄する単なる管になっていて、進化とともにいろいろ複雑にはなったものの、多くの動物の基本構造はみな同じです。手足などの骨も全て大まかには中心軸の周りに対象な円筒または管になっていますし、樹木などの植物は、まさに枝分かれする円柱そのものです。
もしかすると、自然を見ることに優れたセザンヌは、動植物の普遍的構造である円筒を直感的に感じ取っていたのかもしれません。セザンヌの直感と生物の基本形が、なんかぴたっとつながってとてもうれしくなりました。芸術にも造詣の深い本川先生の事だから、どっかでセザンヌくらい引用してそうですが。
上の絵はセザンヌの「カード遊びをする男達」。下のスケッチの右側の生き物はベルベットワームです。(ベルベットワームは有爪動物という体の部品がほとんど管でできている原始的な動物。動画を一応リンクしておきますが、気の弱い人は見ない方が良いです。)
>生き物の体は、「管」が基本になっています
そう考えると、イソギンチャク等は特殊な生き物に部類されるんでしょうね.