有人小惑星探査船 その3

SFC,Sketches,Technology and Design — yam @ 1月 4, 2012 5:26 pm

宇宙船デザインの話の第3回、これで最後です。

探査船のサイズや形は、全体の行程と密接に関わっています。最初に選定した行き先候補である3つの小惑星それぞれに、必要な燃料の量がかなり違うので一概には言えませんが、中央の居住区は直径約10m、タンクを含めた直径は小さくても約30mになりそうです。構造質量だけで数十トン、燃料を含めた出発時重量は数百トンのかなり巨大な宇宙船です。

ミッション開始にあたっては、まず、たくさんのロケットで繰り返し部品や推進剤タンクが打ち上げられ、軌道上で組み立てられます。最後に乗員も打ち上げられ、完成した居住区に乗り込み、いよいよメインエンジンが点火されて出発。フル加速で(といってもせいぜい1Gで数分、0.3Gで数十分ですが)地球軌道を脱します。

空になったタンクは、航行の各段階ごとに捨てられて行きます。タンクだけでなく、最終的にはこの宇宙船はその大部分を宇宙に放棄して帰ってくることになります。もったいないと思うかもしれませんが、再利用のために丈夫にすると重くなりますし、それを持って帰るのにも燃料がいるので、できるだけ薄く作って使い捨てていく方が合理的で現実的なのです。(スペースシャトルは、回収、再利用のできる経済的な宇宙船として華々しくデビューしましたが、結果的にはメンテナンスと打ち上げのコストがかさみ、財政上の悩みのタネになってしまいました。)

上のモックアップの写真は、行きの加減速を終了し、小惑星にたどり着いた頃の形です。すでに多くのタンクを放棄し、帰路の加減速に必要な推進剤だけを保持しています。下の図は全体行程を図式化したものです(クリックで拡大)。

約3ヶ月後、ようやくこの宇宙船は目標とする小惑星から数百メートルの距離まで近づきます。直接に小惑星に着陸することはせず、ひとり乗りの探査ポッドが射出されて小惑星の一角に着陸することになるでしょう。小惑星の重力は非常に小さいので、着陸というより「しがみつく」が正しいかもしれません。

いくつかのミッション(サンプルの採取や観測装置の接地、計測、実験など)が実施され、それが終了すると帰路につきます。さらに約3ヶ月をかけて再び地球軌道上に戻ってきます。

地球の軌道上に戻ってくるころには推進剤タンクはすべて放棄され、中央の多面体の居住区とその先端についた再突入カプセル(先端の円錐状の部分)だけになっています。3人の乗組員が再突入カプセルに移乗し、最終的には居住区も放棄され、カプセルだけが大気圏に突入します。パラシュートで海上に着陸したカプセルを地上班が回収してミッション終了になります。偉業を達成した3人は熱狂的な出迎えを受けることになるでしょう。

以上、長い初夢でした。そう言えばこの宇宙船、まだ名前を付けていません。公募したりすると、なんとなく国家プロジェクトっぽくなるかな。

*写真:清水行雄

3 Comments »

  1. 突然のコメント失礼いたします。
    最後の地球帰還ですが、再突入カプセルをなぜ準備する必要が有るのでしょうか?
    2050年前後であれば地球と低軌道間の一定の往復手段は別に期待できるのではないかと
    おもうのです。地球周回軌道で乗り換えれば良いのではないでしょうか。
    小惑星からの帰還事の速度では直接突入の方が合理的なのでしょうか。

    コメント by takeda — 1月 4, 2012 @ 10:40 pm
  2. takedaさん

    コメントありがとうございます。山中です。
    遠い将来は分かりませんが、近い将来においてはISSのような宇宙ステーションはこの探査船の発着基地にはなり得ないという立場を取りました。理由は、ステーションの周回軌道に合わせてミッションを組み立てると様々なロスが生じるからです。
    もちろんこの考え方にも異論はあると思いますし、将来の宇宙開発全体を議論していく必要があると思います。

    コメント by yam — 1月 5, 2012 @ 10:02 am
  3. はじめまして、牧野と申します。

    有人小惑星探査船のデザインのご提案を興味深く読ませていただきましたが、一つ質問をさせていただいてよろしいでしょうか。
    推進剤タンクが居住区=気密部に接続されているのにはどういうお考えがあってでしょうか?

    この構造ですと気密構造である居住区に大きな強度をもたせる必要があり構造の複雑化ひいては質量面での不利を生じるのではないかという危惧があります。
    推進剤タンク及びエンジンを支持する構造と居住区を別にすることで、それぞれを簡素軽量にできるのではかと考えますがいかがでしょうか。

    コメント by makino — 1月 6, 2012 @ 12:17 am

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