本を書くということ
ここの所ずっと書籍の原稿に追われていたので、ブログを更新することができませんでした。しかし、ようやく書き終わりつつあります。完成間近の本のタイトルは、「カーボン・アスリート —美しい義足に描く夢」。この3年間ずっとやってきた義足デザインプロジェクトの活動記録です。
自分は文章がうまいとは決して思いませんが、多くの人が読みやすいと言ってくれます。しかしそもそも、文章の読みやすさとは何でしょうか。
小説家の平野啓一郎さんは、「小説を売ろうとすると結局はマーケティングの話にしかならないけれど、小説にデザインの発想を導入することで新しい書き方ができるのではないか。」と提言しています。純文学として読者に伝えたい重たいテーマには、今の読者はなかなかじっくりとつきあってくれなくなっているので、リーダビリティということ念頭に置いて小説をデザインしているそうです。
これは面白い考え方だと思いました。製品デザインには、提供できる性能とは別に、ユーザビリティという考え方があります。性能のいいカメラも使いにくいと十分にその性能を提供することがでないので、私たちデザイナーは慎重に検証を重ねながら「使いやすさ」をデザインします。文章にも伝えるべき内容とは別に、読者を内容にアクセスしやすくするためのデザインがあるのではないかというのです。
それを聞いて、どうせ書くなら私はデザイナーだから、その「リーダビリティ」にこだわってみようかなと思って文章を書いています。このブログでも、基本的に長い文章は書かない、専門用語はできるだけ日常用語に置き換える、説明には日常的な光景の例えをつかう、などを心がけています。
もうひとつ、気に留めていることは言葉のリズムです。最近の速読術では、音に頼ると読むスピードが遅くなるので視覚だけで読めと言いますが、私自身は、声に出して読んだときのリズムを考えながら書いています。読み慣れていない人ほど、語り口を必要とするのではないかと。まあこのやり方をしている限り、平野さんのような視覚的にも絢爛な文章は、到底書けそうにありませんが。
写真は、女子短距離走者の高桑早生選手のためにデザインしたカーボンファイバー製の義足です。義肢装具士さんと連携しながら、すでに四世代目。ようやく実戦に耐えるようになってきました(写真は Ver. 3.0)。書籍「カーボン・アスリート」でも、この開発ストーリーが主テーマの一つになります。自分で言うのもなんですが、泣けます。楽しみにしていてください。
刊行は7月。もっと読みやすくしたくて、まだ字句をちょこちょこいじったりしています。
久しぶりのブログ更新、そして新しい本の出版、嬉しいです。
仕事上、義肢装具士の方や義足に触れる機会があり、いつも以上にこの新しい本を楽しみにしております。
Tomohiko Murakamiさん
コメントをありがとうございます。
これからも応援してください。
「骨」展ではモックアップだった義足が、次々と進化を遂げ、アスリートの皆さんの足となって、歓声に沸くトラックを駆け抜ける。素晴らしの一言です!
新しい書籍、とっても楽しみにしています。この夏の楽しみが、一つ増えました!