
フィールドテストに立ち会いながら、二つのことをとてもうれしく思いました。
ひとつは、迷惑をかけてばかりとはいえ、うちの学生が義肢制作の現場に受け入れられ、義肢装具士の方の指導をあおぎながら一緒に作業していたこと。
もうひとつは、若い義足ランナーが、私たちのデザインした義足で何度もトラックを走ってくれて最後に、「今日は本当に楽しかった」と話してくれたこと。
どちらも、義足製作や障害者スポーツの場を、初めて見学したときに思い描いた光景でした。しかし、その時点ではデザイナーがほとんど関わっていないこの医療現場に、私たちが受け入れられる可能性については全く自信が持てませんでした。
デザインは、適切に機能すれば、いかなる場面いかなる場所においても、少なからず人を幸せな気分にする力を持っています。それは、ささやかな幸せかもしれませんが、その力は決して無力なものではありません。しかし同時に、しばしばデザインが「余裕がある人のためのもの」としか理解されていない場も経験してきました。そういうデザインの空白エリアを見つけては、首を突っ込むのは私の性なのですが。
実際に関わり始めてみると、私たちの知らないことがあまりにも多く、何ができるのかを探るところから始めざるを得ませんでした。私と学生達は義肢製作の現場、学会やリハビリセンターなどに足を運び、研究者や医療従事者を訪ねて義肢についての勉強を始めました。ヘルス・エンジェルスという下肢切断者を中心とするスポーツクラブの練習会などに何度も参加し、学生達も一緒に身体を動かしながら、何が必要とされているかを考えてきました。
人との接し方やプロジェクトの進め方には学生達もだいぶ悩んだみたいで、時には無力感も感じ、研究室で学生同士が激しく言い争う場面も少なくなくなかったようです。他のチームメンバーから「義肢チームはいつもギシギシしてる」などという、笑えない報告を何度聞かされたことか。
手探りの一年半でしたが、文字通り走り始めたことを実感できるこのごろです。

坂井直樹さんとの対談のために、XD展を訪れた漫画家のしりあがり寿さんは、パナソニックのレッツノートを抱えていました。「やっぱり軽いので」だそうです。そのボディの深い凹凸を眺めながら、以前にこんな発言をしたのを思い出しました。
ノートパソコンは、薄く作ると重くなる。
薄くフラットであることは、実は剛性の点では不利です。簡単に言うと曲がりやすくなります。パソコンには繊細な部品がたくさん入っていて、大きな変形は致命傷になりかねないので、アップルは、MacBookのためにアルミの塊からボディを削りだして非常に剛性の高いボディを作りました。薄くても簡単には曲がらない魅力的なボディを実現したのですが、結果的に少々重くなってしまっているのは事実です。
その点、レッツノートは薄さと画面の広さをかなぐり捨てて、軽さ、丈夫さに徹しています。まず、小さめのディスプレイを使い、部品を厚めにレイアウトして、全体をごろんとさせることで、曲がりにくくしています。その上でボディ表面に深い凹凸を刻み付けて、さらに剛性を上げます。凹凸のための空間は必要になりますが、その分ボディを作る材料そのものは少なくできるので、さらに軽くなります。一見逆説的ですが、ノートパソコンは同じ中身なら、全体が分厚い方が軽く作れるのです。
友人の勝間和代さんも、もう何世代もレッツノートを使っています。私は、しりあがりさんや勝間さんのように活動的な人に、MacBookを勧める気にはなりません。これはもうターゲットが違うとしか言いようがない。
パナソニックがこの路線にはっきりターゲットをしぼり始めた2003年頃に、レッツノートのデザイナーと対談したことがありました。「本当はmacのように薄くフラットに作りたいんですけど、軽くするために仕方がないんですよ」と、ぽろっと言ってしまったデザイナーさんに、私はこう答えました。「軽くて丈夫に徹するっていいじゃないですか。それを残念な制約と思う必要はないでしょう。胸を張って分厚くて凹凸のあるデザインを追求して下さい」。
その頃からずっと、軽くて丈夫で分厚くてごつごつしたデザインであり続けるレッツノートは、間違いなく存在価値のある商品だと思います。
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ところで、XD eXhibition 10も今日が最終日。今日のトークショーは脇田先生とIAMAS(岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)准教授、小林茂さんのばりばり電子工作対決です。フィジカル・コンピューティングに興味のある人は是非。

「スポーツ用義足の膝継手、板バネ等の開発」紹介パンフレットより。
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Further Step
人の体と、人のつくりしものが一体となり、世界を駆け巡る。私たちはそんな夢を「義足」に託しました。
義肢は元々、失われた四肢を補完するために存在しています。機能と外観を健常者に近づけることが理想のデザインでした。これまでの義足は、それがどのようなデザインであるかさえ知られないままに、衣の下にありました。しかし、義足のアスリート達がスタジアムを駆け抜けるとき、隠すものから見せるものへ、そして賞賛されるものへと、義足が変わりつつあることに気づきます。技術は、より速くより高く躍動しようとする人体のために、新しいかたちを生み出し始めたのです。
とはいえ、スポーツへの扉は開かれたばかり。現状のアスリートたちの足は、既存の限られた部品をかき集めて、試行錯誤を繰り返しながら作られています。志のある人たちが走り始めた今こそ、誰もが愛するスポーツのために、アスリート達をより美しく躍動させるための新しい義足が必要なのです。
私たち慶應義塾大学SFC山中俊治研究室は、エンジニアリングとデザインを通じて、人と人工物の新たな交わりを研究しています。多くの人のための機能的で美しいスポーツ用義足を作りたい。そして、スポーツを愛する選手たちのメダル獲得を、可能な限りサポートしたい。そのような思いでスポーツ用義足の研究開発を進めています。
*この研究は「スポーツ用義足の膝継手、板バネ等の開発」として、株式会社今仙技術研究所および財団法人鉄道弘済会と共同で、平成21年度障害者自立支援機器等研究開発プロジェクトに採択されました。
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今日はXD eXhibition 10の初日。大谷先生とのトークショーも予定されています。このブログを見て、会場に来てくれた人、是非声をかけて下さい。
(写真撮影:清水行雄)

この1年、公的助成を受けながらメーカーと協力して開発してきた義足の試作機が、いくつか形になってきました。今、全国にちらばる約30人の義足ランナー達に協力してもらってのフィールドテストの真っ最中です。
義足の使用者は日本全国で約八千人にすぎません。一時使用の人やお年寄りも多いので、スポーツ用義足を必要とする人は、潜在的な需要を合わせても数百人でしょう。しかも、失われた脚の状況は一人一人違うので、ひとつのデザインがカバーできる人の数は本当に少ない。今回のフィールドテストでも、こちらから提供する部品を使いつつ、それぞれの被験者を担当する義肢装具士がひとつ一つ手作りしています。
デザインという職業は、近代産業の中で、ひとつのひな型が大量生産される事を前提に成立しました。従ってこれほどの少量生産では、従来の意味でのデザイン・ビジネスは成立しません。しかし、「先端技術と人の関わりを設計する技術」という意味でのデザインが必要とされているのは明らかです。その意味では、マス・プロダクションの申し子であるデザイナーという職能が、真のマイノリティに対するローカルカスタマイズに、どのように貢献できるのかを問う試金石であるように思います。
この義足を見た、障害者医療の研究者の一人がこんな声をかけてくれました。
「この義足を使って走る人は、数十人かもしれない。しかし、その人たちが大観衆の前で走れば、その瞬間にこれは何万人もの足になるでしょう。」
この義足は、日曜日から3日間、アクシスギャラリーのXD eXhibition 10で展示されます。

デザイナーの道具のカタログを見ると、「素早く確認」とか「時間の節約」という言葉がよく使われています。いわゆるアーティストが使う画材との、一番の違いはそこかもしれません。
例えば、プロダクトデザイナーのスケッチに多用されるマーカーですが、これも準備のいらない乾きが速い画材として開発されました。最初に普及したデザイナー用マーカーのブランドが、スピードとドライをおやじギャグ的に合わせた「Speedry」ですから。今では高校生も使うようになったコピックも、トナーを溶かさないのでコピーした線画の上に塗れて、スケッチが量産できる事が売りだった頃の名称が生き残っています。
モデル材料も同じです。モデルを作るときのデザイナーの仕事は彫刻家に似ていますが、デザイナーは決して大理石を使ったりしません。発泡スチロールや粘土などの造形が簡単な素材を多用します。スチレンボード、バルサ、ケミカルウッド、いずれも加工しやすいから使われる材料です。
今や、画材としてパソコンを使い、CADと3Dプリンターでモデルを作るようになりましたが、その売り文句も相変わらずスピーディ。
なぜそんなに急ぐのでしょう。アートは心行くまでやればいいが、ビジネスは違う。それはそうですね。産業人である以上、人件費節約や時間短縮は当然だし、意思決定の方法として、ともかくたくさんアイデアを集めるというやり方もあるでしょう。しかし、そうした企業論理とは別に、テクノロジーと関わるデザイナーの仕事は、根本的に瞬間芸であると感じます。
多くのデザイナーは、長くひとつの技術を育てる立場ではなく、むしろその成熟のタイミングを見極める立場にあります。常に進歩し続ける技術と人々の欲望の接点は一瞬。完成度の低い技術は見向きもされず、やっと役に立つようになった技術は、その瞬間から陳腐化し始めます。デザイナーはその一瞬を狙って、アイデアを定着させなければなりません。
ボールがはねる瞬間を捉えてライジングをたたくために、着地点に素早く回り込む。そんなダッシュ力が要求される職業なのかもしれません。私自信はダッシュ苦手なのですが。
上は、秋に発表したコンセプトモデルのスケッチ。ボールペンとコピックで描きました。短期間のプロジェクトでしたからほとんどボレーです。ゆっくりボールの行方を見極めたいものです。

湯布院に亀の井別荘という旅館があります。今更私がここで何かをいうのもむなしいほど、いろいろな雑誌やブログで絶賛されています。それでもちょっと書きたくなりました。
一言でいうとデザイナー泣かせの旅館です。いわゆる「良くデザインされている」と言えそうなところが見当たらないのです。調度品にも特別な感じはなく、庭の造りも一見無造作。にもかかわらず、空間自体に圧倒的な居心地の良さがある。これはなんか不思議だなと歩き回っているうちに、二つのことに気がつきました。
まず、不愉快な色がどこにもないのです。決してミニマルな空間ではなく、必要なものはなんでも揃っているのですが、調和を壊すような質感や色彩が丁寧に除かれている感じ。
もうひとつは、恐ろしいほどに掃除とメンテナンスが行き届いていること。廊下の明かり取りの桟にすら、ほこりが積もっていないのです。信じがたくて、嫁チェックする姑みたいに、指でいろいろな隅っこをなでてしまいました。
共通して言える事は、美意識などという尊大なものとは無縁の、ただ丁寧に「あく」を取り除く作業があらゆる所に行き届いていることでした。「スーパーノーマル」ってこういうことを言うのかも。
どうせ写真ではこの魅力は伝わらないと思いつつさまよっていたら、裏方の作業場でとても美しい光景に出会いました。ムシロを干しているのでしょうか。こういう日常があの居心地を支えているのですね。
帰りがけに、絵のように凛とした風格の女将に挨拶されて、問うてみました。
「ここは、全体で何人泊まれるのですか。」
「60人の方にお泊りいただけます。」
「ここでは何人の方が働いていらっしゃるのでしょう。」
「そうですねえ。レストランとかも入れると百人ぐらいでしょうか」
一万坪の土地にたった60人の宿泊者、そしてその1.6倍の従業員。スーパーノーマルの秘密の一端に触れたような気がしました。

最近どうも、医学生物学系の人と話すのが楽しくて仕方がない。それに目覚めさせてくれたのは養老先生でしたが、先日の倉谷さんとのセミナーも本当に刺激的な体験でした。
今度は、医学博士の大谷俊郎先生とトークショーを行います。大谷先生の専門は整形外科。慶應病院のスポーツクリニック担当でもある大谷先生は、特に関節の権威で、皆さんも良くご存じの有名プロスポーツ選手の膝を、幾例も手術で回復させた、知る人ぞ知る名医です。
写真は、美術品のように美しいと大谷先生が紹介してくれた最新の人工膝関節です。酸化ジルコニウムという耐摩耗性に優れた特殊合金製の深いグレーが何とも気品があります。すばらしい光沢ですが、これは通常の工業製品の鏡面仕上げとはレベルの違う高精度研磨がかけられているからです。わずかな凹凸でも長年使っているうちに不具合に成長するので徹底して平滑にしてある。まさに機能美ですね。医療用品は基本的に「展示」を行わないのですが、骨展では、大谷先生の力添えで展示することができました(これも)。
今回は、SFCのエクスデザイン展覧会の会場イベントであるトークセッションのお相手として、指名させていただきました。当日の話題については、出たとこ勝負なのですが、先日打ち合わせをしたときに、会場で詳しく聞いてみようと思った話題をいくつかばらしますと、こんな感じ。
「膝関節は、少し隙間があった方が良く回る」「人の体に埋め込むものは、品質管理上、梱包も普通じゃない」「膝の専門家は、軸受けのエンジニアと話が合う」「生物学的製剤」「人工膝関節でスポーツは可能か」「外角低めをホームランする膝の使い方」などなど。
ヒンジや軸受けなどの回転ジョイントは、プロダクトのデザインにおいても、キーポイントのひとつ。今からわくわくします。
トークショーの日時は3月14日(日)16:00〜17:30、場所は六本木アクシスギャラリー。無料ですが、席の事前申し込みが必要です(定員50名)。詳しくはこちら
(写真撮影:吉村昌也)

私の研究室がある慶應義塾大学SFCエクス・デザインの、展覧会のお知らせです。骨のあるようなないようなロボット Flagellaにもう一度会いたい人、まだ見てない人は是非どうぞ。
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XD eXhibition 10
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 エクス・デザイン展 2010
展示会期:2010年3月14日(日)〜16日(火)
時間:2010年3月14日(日)13:00〜19:00 / 3月15日(月) 16日(火) 11:00〜 19:00
場所:AXIS ギャラリー (東京都港区六本木5-17-1 AXISビル 4F)
主催:慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 エクスデザインプログラム
参加費:無料
HP:http://xd.sfc.keio.ac.jp
【展示概要】
慶應義塾大学エクス・デザイン(XD)の第2回展示会のご案内をお送りいたします。
今回はインターフェイス、ロボット、音楽、映像、プロダクト、メディアアートなど
多様な分野にわたる十数点の作品展示と技術デモを行います。
会期中、山中俊治、坂井直樹、岩竹徹らをはじめ本プログラムに関わる教員によるセッションも予定しています。
是非この機会にお気軽にご来場を賜りますようご案内申し上げます。
【参加者】
岩竹 徹(コンピュータミュージック)
筧 康明(インタラクティブメディア)
加藤 文俊(コミュニケーション論)
坂井 直樹(プロダクトデザイン)
田中 浩也(メディアインスタレーション)
中西 泰人(ヒューマンインターフェイス)
藤田 修平(映像製作)
山中 俊治(インダストリアルデザイン)
脇田 玲(情報デザイン)
及び各研究室の院生/学部生
【ゲストスピーカーセッション】
■ 3月14日(日)
・14:00〜15:30 岩竹 徹(本プログラム教員)
ゲスト:伊東 乾(作曲家・指揮者)
湯浅 譲二(作曲家・カリフォルニア大学サンディエゴ校名誉教授)
・16:00〜17:30 山中 俊治(本プログラム教員)
ゲスト:大谷 俊郎(慶應義塾大学教授、看護医療学部、医学部整形外科、スポーツクリニック(兼担))
■ 3月15日(月)14:00〜15:30 坂井 直樹(本プログラム教員)
ゲスト:しりあがり寿(漫画家)
■ 3月16日(火)14:00〜15:30 脇田 玲(本プログラム教員)
ゲスト:小林 茂(IAMAS)
定員:50名(各回) 事前申し込み
お名前、所属、連絡先、希望日程を明記いただき、下記アドレスまでお送りください。
お問い合わせ先:TAIRA MASAKO PRESS OFFICE 担当 平昌子
masako@tmpress.jp

手もとにあるプラスチックの製品を見て下さい。真四角な箱だと思っていたものが、よく見るとほんの少しだけ台形になっていませんか。二つの箱を合わせて作られた製品の、真ん中のつながりをよく見ると、わずかに「くの字」に膨らんでいませんか。まっすぐな円筒だと思っていたプラスチックのキャップ、よく見ると少し、口の側が大きくなっていませんか。
プラスチックの製品は、熱く溶けたプラスチックを型に流し込んで、冷えて固まったところで取り出して作ります。そのために多くの場合、どちらかの方向に向かって台形に広がっています。まっすぐなものは型から抜けないからです。型抜きポンで作る板チョコが必ず台形になっているのと同じです。真四角の高級生チョコは違いますよ。ひとつ一つ切って作りますから。
appleの創始者スティーブ・ジョブスはこの台形が許せませんでした。Mac II以前のMacはみんなちゃんと直方体になっています。プラスチックは生チョコのように切って作るわけにはいかないので、型を分割できるように工夫します。型をバラバラにしながら取り出すと、側面が垂直のきれいな直方体が得られます。しかし手間をかけた分、部品の値段はグンと高くなります。これを専門用語でゼロドラフト(抜き勾配ゼロ)といいます。
あるとき、高いものばかり作っていたジョブスが会社を追われました。追い出した人たちは、Macをほんの少しだけ台形に直しました。その方が安く作れるからです。でも、私たちの目はごまかせません。ジョブスがいない時代のMacが、何となく普通なのはそのせいです。Macの板チョコ時代です。
ジョブスが戻ってきて、再び台形をやめました。初代iPodシャッフルやMac miniのボディは切り出されたように四角くデザインされました。ACアダプターでさえ、側面がちゃんと垂直になっています。まさにゼロドラフト、生チョコの復活。
iPhoneの背面ボディを作っているつやつやの曲面をよく見ると、ある所から前は台形に開くどころか丸くすぼまっています。これはひとつひとつ、磨いて作られました。非常識にコストがかかる製造方法です。ほとんどトリュフチョコ。
というわけでAppleのデザインは、ひとえにジョブスの台形嫌いが支えているのでした。板チョコに恨みがあるに違いない?

カンブリア紀の生物のスケッチから、オパビニアです。五つの目、象の鼻のようにのびた口、開いたエビのような胴体としっぽ、もうわけがわかんないデザイン。これも過去に紹介したハルキゲニアやアノマロカリスと同じく、化石の写真から私なりに書いてみた、「古生物学者ごっこ」の一枚です。
カンブリア紀は、生物の外観デザインが急速に多様化した時代です。
5億4千万年前、突然に生き物たちの間の食う食われるの生存競争が激化しました。それまでの生き物の多くは、海の中を漂うようにのんびりと暮らしていたとか。弱肉強食の世界になったきっかけは、お互いの位置が遠くからでもわかる「目」が生まれた事だと言われています。
その後、進化の歴史から見ると非常に短期間に、固い殻、とげ、爪、牙、高速で追いかけっこをするためのひれなどの器官を、生き物たちは次々に獲得していきました。現在の生物が持つ硬い器官の原型の多くがこの時代に生まれたそうです。
同時に、私たちには見慣れない、まるで地球外の生き物のような不思議なデザインの生物もたくさん生まれました。しかしこのオパビニアを始め、その多くは長く子孫を残す事なく消えていきました。
ある技術がきっかけで市場が活性化する。市場競争がさらなる技術開発を促す。開発の初期にはいろいろなアイデアが試され、奇抜なものもたくさん生まれる。そして、その多くがすぐに市場から消えてしまう。
なんとなく身につまされながら描いたスケッチです。
(スケッチの初出は雑誌AXIS。98年、アスキー出版「フューチャー・スタイル」に再掲載。)