「かたちだけの愛」を義足のデザイナーとして読んでみた
平野啓一郎さんの「かたちだけの愛」を読みました。
この小説の主題は「愛」なのですが、主人公は、交通事故で片足をなくした女優と、その現場に居合わせて彼女のために「美しい義足」を作ろうとするプロダクトデザイナー。実際に義足をデザインしているプロダクトデザイナーとして、少しばかり感想を書いてみたいと思います。
結論から言うと、とてもリアリティがありました。
<以下少々ネタバレ注意>
お話の中のデザイナーの生活や創作プロセスは、プロの目から見てもなかなか臨場感があります。いくつかの架空の商品やプロジェクトが登場しますが、どれも魅力的で、実際に形にしてみたいと感じるものばかり。アイデアが生まれたばかりのときの曖昧さと不安、徐々にかたちになっていく時の高揚感、人に使ってもらうときの喜びなど、共感できる所がたくさんありました。
特に義足のデザインについての問題点の指摘は、我々がいま進めているプロジェクトの出発点とほとんど同じでした。つまり、義足は本物そっくりがベストと思われているけど、本当にそれでいいのか、という疑問です。機械を使い、人工素材を使う以上、人の形に似せることと機能は原理的に相反します。本物に似せようとするほど、その違いがあらわになる。だからこそ、人の足を超えた美しい義足を目指すべきではないか。著者が、現場を取材して同じような問題意識を持ってくれたのだとすれば、それはとても心強い事です。
ラスト近くの「現場」の雰囲気は特にリアルで素晴らしいと思いました。私も何度か体験したギリギリの緊張感とその中で起こるトラブル、へこたれずに作り続ける仲間達。何かを作り出す喜びに溢れています。そしてラストは本当にまぶしいばかりのイメージの渦。久しぶりにちょっと動けなくなるくらい感動しました。
ある方から私がモデルではないかという光栄な質問を頂きましたが、それはあり得ません。私が平野啓一郎さんに初めてお会いしたのは、この小説の新聞連載がまもなく終わる頃でした。確かに私も、「トロメオ」を使うし、「緒方君」というアシスタントもいるし、「ゴッドハンド」と一緒に義足を作っていますが、それらはみんな偶然です。おかげでリアルで楽しいパラレルワールド体験をさせていただきました。
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既にご存じかとも思いますが、動画がおもしろかったので…
「人工ブレードランナー」とでも言うのでしょうか、
東大とMITの研究者による走るロボット(動画)
http://wiredvision.jp/news/201012/2010121519.html
三谷祐二さん
コメントありがとうございます。
実は研究者である新山龍馬さんにはお会いしたこともあり、
この研究も注目していました。とても面白いと思います。