あらためてSuicaの話でもしようか その1
Suicaの開発プロセスについて触れておきたいと思います。すでにいろいろなところでしゃべったり書いたりしたことなので、ここでは裏話的に。
ことの発端は、1995年にJR東日本の非接触自動改札機(まだSuicaという名前はなかった)の開発担当者が、私のところに相談に来た所から始まります。ICカードを使う改札機については、すでに10年以上研究されており、技術的にはほぼ現在と同じレベルに近付きつつありました。
しかし、実際に試作してテストしてみると、ちゃんと通れない人が半数近くに登りました。特に実験に参加した重役達の評判は悪く、「私のは5回に一回しか通してくれない。2割バッターだ」などと、開発部長が会議の席で罵倒される場面もあったりして、開発中止直前に追い込まれていたそうです。
原因はある程度分かっていました。お財布ケータイやセキュリティカードに慣れた現代の皆さんなら、カードを当てる場所はすぐにわかるでしょうし、当ててから、機械が反応するまでにほんの少し「間」があることも知っています。でも当時の人はそんな機械は見たこともなかったので、当てる場所さえ見当がつかず、ちょっとカードを止めるコツなど誰も知らなかった。
「うまくアンテナ面に当ててくれるように、そして、一瞬止めてくれるようにデザインできませんか」私には、できるともできないとも言えませんでした。一般的に新しい原理の機械の使い勝手に対しては、デザイナーの直感が全く無力である事をよく知っていたからです。
ただ、アメリカから帰って来たばかりの認知科学を専門とする友人が言った言葉を思い出しました。「たくさんの被験者を使う必要はない、実験機を作って丁寧に観察すれば数人の被験者でも、使い勝手の大半は解決できる」まだヤコブ・ニールセンが名著ユーザビリティ・エンジニアリングを書いたばかりで、日本ではユーザービリティという言葉もあまり知られていない時代でした。
私は、聞いた知識をかき集めて、「実験提案書」を作りました。もちろん自分でやるつもりはありません。なにしろ、やったことがないのですから。しかし、その提案書は案外に評判が良く、是非その実験をやってくれということになったのです。
「面倒なことになった」。そう思いながら引き受けたのは翌年のことでした。
その2へ続きます。
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白黒写真が、NHKの、「Project X」 みたいでカッコいいですね。
滅多にありませんが、改札で、エラーが出てパタンと閉まると、
いつも山中さんのコレを思い出してます。
世の中の標準をデザインできるって素晴らしいことですね。
[…] + 山中俊治の「デザインの骨格」 » あらためてSuicaの話でもしようか […]
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コメントありがとうございます。
多分、世の中の標準をデザインしようなどという
気負いがなかったのが良かったのだと思います。
階段に座っている山中さんの姿が、子供を見守るお父さんみたいです。
何事も丁寧に観察する癖をつけようと思います。
tq3さん、良く見つけてくれました。
テストの二日間はずっとあそこに座っていました。
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