細身でしなやかな武道の達人
先日の夕食会で、小説家の平野啓一郎さんから「日本人デザイナーは欧米のようなボリュームのある曲面の使い方が苦手という話を良く聞きますが、実際はどうなんでしょう」という質問がありました。
以前に、ドイツのカーデザイナーに「日本の乗用車の質感は素晴らしい。しかし、どうしてあんなに弱々しくデザインするのか不思議だ。剛性感とか丈夫さとかを表現しようと思わないのか」と言われたことがあります。英国のデザイナー達は曲面の成り立ちについて、生命の進化にからめてロマンを語りますし、ラテン系のデザイナー達は本当に楽しそうに豊かなボリュームをなで回します。
私は、日本のデザイナーの中では有機的な曲面を多用する方だと思いますが、確かに自分にはイタリア人のようなおおらかな面や、アメリカ人のようなモリモリのボリュームはうまく使えません。曲面を磨き上げながら、できるだけスリムにしようとしている自分がいます。無駄をそぎ落とした、研ぎすまされた細身の筋肉のようなものが理想像としてあるのかもしれません。
写真のOXOのサービンツールは、日本の食生活を考えてデザインしたものです。しかし、目標はあくまでも機能的な意味での日本の食文化への適合であって、あえて色と形については日本的である事は全く意識しないでデザインしました。にもかかわらず、いやだからこそなのかもしれませんが、何人かの欧米人にきわめて日本的なデザインだと言われます。
昔からスリムな優男が巨漢を手玉に取るというヒーロー像は日本のフィクションの中に繰り返し登場します。武道の達人も細身でしなやかなイメージ。
その意味では、アメリカンヒーローを地でいくマッチョな大リーガーたちの中で、スピードとキレで勝負する細身のイチローはまさに日本の美意識の体現者と言えそうです。彼が打席に入って最初に見せるバットを前に立てて相手を睨みつける仕草も、何となく歌舞伎の「見得切り」のように見えませんか。
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いつも楽しく読ませていただいております。
この『強さ(ボリューム感や剛性感)』の話、普段の仕事にも絡むので大変興味深く読ませていただきました。
BMW、Audi始め多くのドイツ系メーカーの面質の強いこと。
まさに肉食獣的といった感じです。
一方、日本メーカーの車はどこかすらっとしている。
根本にはやはり文化的な背景があると私も感じておりました。
マッチョな彫刻文化に根ざした3次元的な欧州と、
どちらかというと2次元的な日本?
おっしゃる通り『しなやかで細身』であることへの憧れも強いように思います。
土方歳三や近藤勇よりも沖田総司にあこがれるというか。
そういう価値観が背景にあって無意識にムダを削ぎ落とし
細身ですらっとしたものを美しいと思うのかもしれません。
Musyaさん
コメントをありがとうございます。
ボリュームに対する民族性の違いについては、昔から言われている事
でもあるのですが、やはり実物を比べると、かなわんと思うところと、
いやだなあと思うところがあって自分のルーツを意識させられますね。
これからもコメントいただければ幸いです。
はじめて、コメントします。
イラストの世界では、よく「描く人に似る」と言われます。
デザインもどこかそういうところがあるのではないでしょうか。
妙な言い方をすると、その人の思想が出るというか。
筋肉を信奉しているとマッチョなデザインになったりというようなことがあるのかなと。