南アフリカの光と陰 その2
南アフリカの国際会議、Design Indabaは、生まれ変わりつつあるこの国の活力を感じるものでした。しかし、一方で経済成長の陰に隠れて今なお拡大する闇も、少なからず見ることができました。
滞在中、主催者からは、6時を過ぎたら、いかなる場所であれ一人で出歩かないよう何度か警告されました。実際、まだ明るい夕方6時半ごろに講演者がひとりで散歩に出かけたといって、現地スタッフが血相を変えて探していたこともありました。
急速な経済成長のもとで、ブラック・ダイヤモンドと呼ばれる黒人富裕層が生まれる一方で、失業率は20%(黒人失業率は30%)を超えています。6時になると、帰宅する労働者たち代わって、失業者たちが都市中心部に流入して、市内の雰囲気ががらりと変わるのです。
講演者全員に用意された専用車の運転手さんが、どこへでも連れて行ってくれましたので、私たちはバスや列車を使う事はいっさいありませんでした。彼は、クルマを降りた先でも、いつも一緒に行動してくれます。常に黒い上着を着ているので申し訳なく思って、ある暑い日にジャケットを脱ぐ事を勧めたら、自分の胸を指差しながら「武器があるので脱げない」と。彼の本職は警官で、この会議のためにガードマンとして動員されたそうです。
写真は、その運転手兼ガードマン氏が案内してくれた旧黒人居住地です。20年前までの黒人たちは、鉄条網に囲まれたそのエリアから自由に出入りする事も許されていませんでした。現在では解放されているのですが、仕事のない貧しい人たちの多くは、残骸となった鉄条網の中で暮らしています。
ここに入るにあたっては、運転手氏が応援を手配し、私と妻は、警官4人にガードされながらそのエリアを歩きました。荒涼とした砂地に、ありとあらゆる廃材で立てられた家。舗装道路もなく、下水も整備されていない街は、ゴミだらけでした。ある家族が私たちを明るい笑顔で家に招き入れてくれましたが、室内にも廃品をかき集めたような家具が並べられていました。
救いだったのは、そこで生活する人々がそれほど不幸には見えなかったことでした。廃材の家には、長く住まわれた家だけが持つ、穏やかな空気が流れていたのです。陽気な彼らは、さかんに、楽しげに話しかけてくれました。もちろん何も言っているのかは全くわからないのですが。
身分制度こそなくなったものの、深刻な貧富の格差にあえぐ南アフリカ。私たちの帰国後に、周辺国からの移民が社会問題化して大きな暴動が起き、今も小競り合いが続いているそうです。あの鉄条網の中で暮らす陽気な人々は、ワールドカップをどのように受け止めているのでしょうか。
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