Alex Moulton, my friend
久しぶりに自転車を買いました。クロスバイクですが、速くて軽くて、ちょっと別世界に感じました。自分の移動速度が上がるのってうれしいものですね。
フリーのデザイナーとして駆け出しの頃(もう20年も前です)に、ブリヂストンのために自転車をデザインしたことがあります(上図)。小径タイヤの低いフレームにロードバイクの高級パーツを取り付けた、超軽量の街乗り自転車の提案でした。今じゃ当たり前の商品ですが、日本ではまだ大きなタイヤのロードバイクか、小さなタイヤのママチャリがほとんどの時代でした。英国のモールトンが小さなタイヤの超高級スポーツ車を作っていましたが、私の提案はモールトンへのオマージュであり、かの自転車を日常の道具にしたいという思いを込めたものだったのです。
私とブリヂストンは試作車を製作し、AXISビルで行われたある展覧会に出品しました。英国デザイン界の大御所、ケネス・グレンジさんがたまたま来日していて、「あなたの自転車が気に入ったよ」と声をかけてくれました。日本でも30年以上売られている資生堂タクティクスのボトルを手がけ、列車、ロンドンタクシー、名作と言われるオーディオやカメラを数多く残したグレンジさんは、背の高い、ロマンスグレーの英国紳士でした。高名な方でしたからそれだけでも感激だったのですが、そのあとの台詞がすごくて、今もはっきり覚えています。
「実は、私は小さなタイヤの自転車はどうもふらふらする気がして、あまり好きではない。でも友人のアレックス・モールトンは小さなタイヤがいいと言って譲らないんだ。いつもけんかになる。」
1920年生まれのアレックス・モールトン卿と1929 年生まれのケネス・グレンジ卿、Sirと呼ばれるお二人の口論!。ささやかな歴史的体験です。
数年後にブリヂストンの小径自転車がGマークの大賞を取ったとき、久しぶりにあった設計者に感謝の言葉をいただきました。「山中さんに提案いただいたコンセプトがようやく商品になりました」と。
もう一度デザインしたいですね、自転車。
[…] This post was mentioned on Twitter by 43days and hide_takata, otake. otake said: 「実は、私は小さなタイヤの自転車はどうもふらふらする気がして、あまり好きではない。でも友人のアレックス・モールトンは小さなタイヤがいいと言って譲らないんだ。いつもけんかになる。」http://bit.ly/4rRnMe […]
上のPingBack先で
「『20年前,まだMTBという言葉もなかった』は違ってて,当時すでにMTB(or ATB CTB)乗ってたよ。」というご指摘をいただきました。
そう言えばパーツを、ロードバイクのものにするか、MTBのものにするかで迷った記憶があります。いい加減ですみません。本文は直しました。
ご指摘ありがとうございました。
[…] 上のスケッチは、以前に自転車をデザインしたときに描いたもの。 […]