清水行雄の眼

Bones,Works — yam @ 6月 27, 2009 4:38 pm

q45-1

「機能の写像」という私の作品集があります。写真家の清水行雄さんによる私の作品写真を2006年に一冊の本にまとめました。以下その前書きから。

閑静な住宅街の地下にある、ひんやりとしたスタジオ。照明やアングルのセッティングに費やされる、ひたすらな沈黙と視線。おおむね一日がかりで、作品の断面が切り取られる。撮影中私は、特に口を出すわけでもなく、ただずっとその場にいる。自分の指先と目と思考から生まれた製作物が、写真家のとぎすまされた視線に晒されるときの、いたたまれなさと高揚感は麻薬的ですらある。 撮影は、技術者である私と写真家清水行雄氏との対話である。

清水氏とのつきあいは、私の実質的なデビュー作であったオリンパスのカメラ「O-product」の写真を、ある雑誌の中で見つけたときから始まる。1989年の事だ。様々な媒体に掲載された写真の中で、最もこのカメラの根源的な魅力に触れた写真だった。すぐに編集部に電話をかけ、六本木にあった氏のスタジオを訪ねた。その時以来、17年にわたって、清水氏は、私のほとんどの作品を記録している。

様々な人が参加することで醸成された工業製品の技術思想は、写真という表現手段だけで語り尽くせるものではない。しかし、清水氏の目で切り取られて定着される瞬間に、自分の仕事は、テクノロジーの視覚化なのだとはっきり自覚することができる。今や清水氏の目に耐えるものを作る事は、ひとつの目標であり、氏の写真は私の製作プロセスの一部である。

清水さんは、大変怖い人だという噂をときどき耳にします。私はそんな風に感じたことはありませんが、撮影中の清水さんには、近寄りがたい厳しさがあります。

上の写真は、私が日産自動車にいた頃にデザインしたInfiniti Q45のボンネット。私と清水さんが知り合う前に、日産の広報用に撮影されました。

シンプルな写真ですが、それだけにクルマの曲面の完成度を極限まで要求する恐ろしい写真です。20代の若造だった私がこの撮影に立ち会っていたら、肝を冷やしたかも知れません。

「機能の写像」は骨展の会場でも販売しています。是非手に取ってみてください。

1件のコメント »

  1. […] 先月、写真家、清水行雄氏による「弓曵き小早船」の撮影が行われました。清水氏に撮影を依頼するというのは、私にとっては、もう20年近く繰り返されてきた、作品の完成を確認する儀

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