計量感覚の話は、随分反響をいただきました。寸法を目で測れるようになる事ばかりでなく、Gurigurimomongaさんのコメントに上げていただいたフェルミ推定のように、手持ちの条件から大雑把に数量を推定することも、デザイナーに必要な能力の一つです。
先日の上海帰りに、私の乗る飛行機が大阪周辺にさしかかったとき、右方向に平行して飛ぶ旅客機を見ました。どんどん近づいてきて不安になったので、距離を推定する方法を考えてみました。
見えている機影はB777で、その全長はわかっているので、これを基準にして見かけ上の大きさと比較してみることにしました。窓に指を当てて計ってみると、窓の位置では全長が2センチぐらいに見えています。飛行機の実際のサイズはおよそこの3500倍。視野角が同じなら距離とサイズは比例するので、窓と自分の顔の距離を3500倍して約3kmと推定しました。
この推定は、かなり乱暴なものです。見かけの大きさの測定が5ミリ違うだけでも数百メートルの差になるので、簡単に数十パーセントの誤差を生むでしょう。それでも10kmでも500mでもなく、おそらく2〜4kmということが分かれば、かなり気が楽になります。
実際、ものづくりの現場では見当違いの数字を出さない事が重要な場面も多いので、こんな精度でも結構有用なのです。重要なのは、推定の手がかりとして、寸法のわかっている基準器を見つける事です。
powaroさんのコメントに、学生が極端に小さな家具を平気で描いてくるという話がありました。
引っ越しマニアというか、不動産マニアの妻は、いつもチラシの間取り図からかなり正確に広さの印象をつかんでいるので、こつを聞くと、トイレの便器を基準にしているとのこと。
キッチンシンクやドアのサイズなども、小さい家に合わせて小さくできるので、あてにならないのですが、人にフィットする便座だけは、ほとんどサイズが変わらない。それをもとに家のサイズを想像するそうです。
間取り図は便器を見るべし。
(スケッチは、人と技術のスケッチブック「航空機を作る」太平社刊より)
ものづくりの現場に関わると、計量感覚がかなり重要になってきます。
先日、ある学生に研究中の部品の既存製品はどのぐらいの厚さだったかと聞いたら「薄いものでした」という答え。「いやだからどのくらい?」と聞き直したら「えーと、とても薄かったです」。苦笑するしかありませんでした。
ものづくりの現場にいると、ある段階から「薄くしたい」では許されず、寸法を何ミリにしたいという明快な意思表示が必要になります。その経験を積むと、自然に携帯電話のキーをみて「(突出量が)0.2ミリないかも」とか、車のバンパー見て「8000R(曲率半径が8mという意味です)ぐらいか」とか習慣的に考えるようになってきます。
以前に、公共建築の家具をデザインして、お役所の人が試作品を確認する「検査会」に参加したときの事です。自分もその試作品を見るのが初めてだったので、ついいつもの調子で、椅子の肘掛けのエッジが、私の指示よりシャープになっていることを指摘してしまいました。
「指示した2.5Rよりも小さいと思います」「いや指示通りに作ったはずです」「どう見ても2ミリ以下でしょ」
などのやり取りがあって、結局、県の営繕課やゼネコンの担当者など関係者十数人が見守る中で、エッジの丸みを測定する事に。
工業製品のエッジは、シャープな印象のものでも、触ってけがをしない程度には丸みがつけてあります。製品をぶった切ってみると、エッジのところの断面は小さな円弧になっていて、デザイナーはその半径をR(radiusの頭文字)をつけた寸法で指示します。出来上がった製品のRを見分けるには多少経験がいりますし、製品を切断しないで正確に知るためには専用の道具も必要です。
さて、私が指摘した椅子の肘掛けは、作業員がゲージで測定した結果、エッジ断面の半径が2.5ミリあるべきところが、2ミリ弱しかなかった事が判明しました。もちろんその場で修正が約束されました。その検査会は、新しいデザインの椅子が県に承認されるかどうかの重要なお披露目にあたり、メーカーにとってはかなり緊張した会議でした。しかし、空気の読めない私が一悶着起こしたおかげか、県のお役人からは特に注文が付く事もなく、めでたく1999年に埼玉県立大学の大ホールに設置されています(上はその初期スケッチ)。
後日、「デザイナーって言うのは 、エッジの丸みの0.5ミリの違いを、見ただけでわかるらしい。」って、県庁で評判になっていたと、建築事務所の方から聞かされました。しかし、デザイナーであれば、あらゆる詳細についての計量感覚を持ち合わせている事は当然です。先の学生も、卒業までには「すごく薄い」ではなく「3.5から4ミリぐらいでした」と自然に答えらえるよう、鍛えなおしです。
骨展に出品された湯沢英治さんのアカミミガメの骨の写真です。
これを見ると、カメの甲羅は背骨とつながっていて、左右にくし状に広がっているので、肋骨から進化したものなんじゃないかと想像できます。でもそう簡単じゃないらしい。
前足の付け根に、小さなしゃもじのような形の骨が突き出ていていますね。どうやら肩甲骨らしいのですが、これが発生学や古生物学の先生たちを悩ませました。 (more…)
物理学者でありエッセイストでもあった寺田寅彦は、1921年に「漫画と科学」というタイトルでこんな文章を残しています。
漫画によって表現された人間の形態並びに精神的の特徴は、一方において特異なものであると同時に他方ではその特徴を共有する一つの集団の普遍性を抽象してその集団の「型」を設定する事になる。こういう対象の取扱い方は実に科学者がその科学的対象を取扱うのと著しく類似したものである。 (more…)
自転車で都内をうろうろしてみると、乗り換え案内やカーナビにたよった生活ではほとんど気にすることはない、地形の高低差による「位置エネルギー」 を意識するようになります。 (more…)
良く降りますね。
雨はあんなに高いところから落ちてくるのにあまり痛くない。子供のころ、それがとても不思議でした。高いところから落ちてきた石が当たると、とても痛いのに。 (more…)
科学雑誌「ニュートン」の最近の特集がシブいです。ここ一年の特集を並べてみると (more…)
国交省は、静かすぎることの危険性が指摘されているハイブリッド車や電気自動車に、エンジン音に似た音を加えることを義務付ける方針だそうです。
「せっかく静かな車のに」「わざわざ騒音にしなくても、もっと気持ちのいい音にしたら」などいろいろな意見があると思います。でも私は今回の方針でいいんじゃないかと思いました。 (more…)