面白くなることだけは間違いない
報告が遅くなりましたが、4月1日から東京大学生産技術研究所の教授となりました。
ことの始まりは、昨年の秋にある人が訪ねて来て「東京大学にデザインをもたらして欲しい」と依頼されたことでした。今の日本にはデザインの力がとても重要なのは明らかなのに、東京大学にはその確固たる拠点がないと。
2008年に私は、慶應義塾大学の若手の研究者達に呼ばれて、SFC(湘南藤沢キャンパス)の教授に着任しました。そして、「人と人工物の間に起こること全て」を、工学も芸術も社会学も総動員してデザインする研究グループ、X-DESIGNを彼らと共に立ち上げました。幸いなことに就任してすぐ、たくさんの学生達が私の元に集まってくれ、彼らと共に義足アスリート達に出会い、「骨」展を主催し、少しずつ実験的なものを作り始めました。それから5年、素晴らしい仲間と学生を得て、ある程度の成果を発信できるようになったと実感しています。
まさに理想的なデザインの場が花開きつつある手応えを感じている状況でしたので、 東京大学からのオファーに対しては本当に迷いました。一度はお断りしようとしたのですが、最終的には移動を選びます。30年以上前に学生の私がデザイナーになりたいと思った時には、東京大学にそれを勉強する場所がありませんでした。だからこそ、かつての私のために、ここにデザインを探求し実践する場所を作ろうと思います。
もちろん不安はいっぱいですが、いつも肝に銘じていることがあります。
「決断は軽く、面白そうだと思う方へ」
新しいことを始めるときはいつも先が見えないものです。それに比べると今のままでいる事はとても予想しやすい。だからどっちが良い未来かを比べてもしかたがない。むしろ「まあ面白くなることだけは間違いない」と思えたら十分実行する価値はあると思うのです。
東京大学では、プロトタイピングを活動の核にしようと思います。久しぶりに戻って来た東京大学はやはり宝の山でした。まだ世に出て行かない夢のような先端技術が形を与えられることを待っています。私の仕事は研究者の夢に実体を与え、一足先に人々が未来を体験できる人工物「プロトタイプ」を作ることです。人と技術の間に起こる事すべてをていねいにデザインしたプロトタイプは、単なる試作品を越えて、人々と未来の技術をつないでくれるはずです。
移動が正式に決まってから就任まで一月半しかなく、研究スペースもこれから作って行くという心細い状況ですが、両大学の先生達に支えられて、東京大学を本務としながらも慶應義塾大学の研究室も維持する体制ができました。結果的に、私が理想とする「デザイン」の活動が二つの大学に拡がりそう。
とにかく「面白くなることだけは間違いない」です。