ドイツにフェストFestoという会社があります。電磁バルブや空気圧アクチュエーターなどの様々な空気圧機器、部品を作っている会社です。いずれも私たちが日常生活で直接に使うような製品ではないので、一般的にはあまり知られていません。この会社の製品は、売れ行きを伸ばすために見映えを良くするようなデザインとは無縁なのですが、機能的でシンプルでありながら質感が高く、ドイツ IFなどのデザイン賞の常連です。
そのフェスト社は、2006年頃から「生体工学学習ネットワーク Bionic Learning Network」あるいは「自然からの発想 Inspired by Nature」と名付けられたプロジェクトで、様々なロボットを研究しプロトタイプを発表しています。いずれも、生き物の機能を引用しながら、新しい技術コンセプトを提示しており、必ずしも直ちに役に立つものではないものの、技術者からもアーティストからも非常に高い評価を受けています。特に、エアジェリー、エアペンギンなどと名付けられた、ヘリウムガスを充填した薄い膜構造と超軽量の制御機構からなる、一連の飛行体は圧巻です。
その最新作が先日発表されました。実際に羽ばたいて飛ぶ事ができるカモメ型の超軽量ロボットで、その名も「スマートバード」。羽ばたき飛行のロボットはこれまでにもありましたが。これほどしなやかに優雅に空を飛ぶロボットは初めて見ました。
翼長は2m近くありますが、重量はわずか450グラム,繊細なリンク機構で羽ばたく超軽量骨格の翼は、羽ばたくたびに柔らかくねじれ、効果的に空気を抱え込み送り出します。フェスト社の解説によれば、本物の鳥に近いエネルギー効率を実現したそうで、映像にはありませんが、ちゃんと離陸し着陸するようです。
フェストのような産業用に特化した部品メーカーは、どうしても一般消費者との接点が希薄になります。日本でもそうしたメーカーは人材を確保するのにも苦労することが多いようですが、これらの夢のあるプロトタイプを発表する事で、フェスト社は、多くの人々にその技術力と美意識を効果的にプレゼンテーションしています。こうした役割を果たすのも、技術と人を繋ぐデザイナーの役割でしょう。
私たちは今、テクノロジーがもたらした不幸な結果に直面しています。しかしだからこそ、美しい技術の夢をながめながら、自然界では人だけに与えられた「未来を創る力」をどこへ向けるのかを考えて行きたいと思います。
まだ、地震で被害を受けた原発を押さえ込むための努力が続いていますが、報道を見ながら家族と話してみると、「放射能」という言葉が表す物の実体をイメージすることの難しさを改めて思いました。専門家でもなんでもないのですが、家族に説明するつもりで放射能についての私なりのビジュアルイメージを描いてみます。
「放射能」という不思議な言葉は、ラジオ・アクティビティの訳語として作られました。ラジオは「光の放射」を表す言葉、アクティビティは「能力」です。かつて、何やら目に見えない強い光を発する物質を発見した科学者達は、その物質たちの働きの総称として、ラジオ・アクティビティ(放射能力)と名付けました。その後、科学者達はこの「放射能力」のある物質を精製して一カ所に集めると、それが互いに影響し合ってものすごく強い光を出すことを突き止めました。これを利用した原子力発電では、その強力な見えない光でお湯を沸かして蒸気の力で発電しています。
さて、このように「放射能」という言葉は、もともとは機能を表す言葉なのですが、広く二つの意味で使われてます。
一つは「目に見えない強い光」(放射線)そのものの意味。この場合「放射能を浴びる」などと表現されます。この光の特徴は、目には見えず、透過力が強く、かつ破壊力があることです。かすかなものは自然界にも普通に存在していて、ほとんど無害なのですが、強力な源の近くで大量に浴びる事はとても危険です。日光浴でもときには火ぶくれになりますが、体の表面の火傷なのですぐに直ります。ところがこの目に見えない光は体の内部まで一様に焼くので、痛みはなくても人体は致命的な損傷を受け、かつ非常に回復が難しいのです。
原子力発電ではこの光が外に漏れないよう、分厚い金属で厳重にカバーしています。もし原子炉が壊れて中から直接光が出て来たら、服や家屋もほとんど遮る役には立たないので、ともかく離れるしかありません。10センチの距離なら火傷する電気ストーブでも、10m離れれば何の効果もなくなるように、距離を取ることがとても効果的です。
一方「放射能に汚染された」とか「雨と一緒に降ってくる」などと表現するときの放射能という言葉は「放射能力のある物質」の意味で使われています。目に見えない光を発する「光る粉」をイメージしてみましょう。ひとつ一つはわずかな光なので、体についても短時間なら害はありませんが、大量に吸い込むと体の中のあちこちがその光によって損傷を受けます。この物質にはいろいろな種類があるのですが、中には何年、何十年も光り続けるものもあります。そういうものが体の中に留まると、傍らにある細胞は長期間その光を浴びることになり、癌などの疾患を引き起こします(期間は短くても強く光るものもあるので寿命が短いから安全とは言えませんが)。
この「見えない光る粉」が広範囲にばらまかれてしまったときの対策の基本は、ともかく体に入れないようにすることです。なるべく浴びないこと、浴びたらすぐに洗い流すこと。毒ではないので解毒剤のようなものはありません。良く似た物質で、放射能力のないものを大量にとると、体にたまるのを防ぐ効果はあります。
以上のように「放射能」という言葉は、二つの実体が混合されたまま使用されています。「放射能漏れ」と聞いたときに、光そのものが放射されているのか、光る粉がただよい出たのかを見極めることは大切で、それによって全く対処が違います。
いずれにしても目に見えないし、何も感じられない現象なのでとても不安になりますが、だからこそ、きちんとしたイメージを持つことが、私たちの身の守るための第一歩だと思います。
(この文章は一応技術職にある私の理解を、分かりやすく伝えようとしたものです。私は原子力の専門家ではありません。よりきちんと伝えるための専門家の方の助言をお待ちしています。)
先日、種子島に取材旅行に行った時、35人乗りの小さな飛行機に乗りました。このあまり見かけない形の飛行機はサーブ 340Bと言います。そうあのスエーデンの自動車、サーブと同じブランドの飛行機なのです。実はサーブはもとは日本の富士重などと同じように航空機、軍需品のメーカーであり、そこから自動車部門が独立してサーブ・オートモビルとなりました。
種子島まで35分の短いフライトでしたが、搭乗が折りたたみの小さなタラップだったり、各シートの前には気分が悪くなったときのための袋が3つずつ(そんなに要るのか?)用意されているなど、小型機らしい体験がたっぷり。現在の大型機と違って貨物室が客席の後方にあり、「重量のある貨物が搭載されたので、バランスを保つために前6列のお客様からご搭乗下さい。」などという珍しいアナウンスも聞こえます。
私は飛行中、一番後ろの席からエンジンのカーブをながめながら、サーブ92や900などのかつての名車たちを思い出していました。デザイナー達の交流があったかどうかはわかりませんが、ラインの癖がそっくりなのです。以前このブログで、第二次大戦当時の戦闘機のデザインにはそれぞれのお国柄が現れると描きましたが、この航空機も車もまさに「サーブ」のラインでできていました。
それは一言で言うと、カジュアルで人なつこく、優しさのあるどこか女性的なラインです(全然一言じゃないし、笑)。こういうニュアンスは結局比喩で語るしかないのでうまく伝わるかどうかはわかりませんが、写真でもボーイングなどの力強さとは違う優しさ、悪く言えばひ弱さを感じてもらえるでしょうか。
実は自動車会社にいた頃、サーブのラインがとても好きだったのです。日本の南の方の島で、なつかしい北欧の文化に出会った素敵なひとときでした。