太陽が恋しい
寒いですね。こういう日は本当に太陽が恋しい。
太陽のエネルギーは、地上を暖め、水と大気を還流させ、すべての生命活動を支えています。総量としては人類が使うエネルギーなど問題にならないほどふんだんに降り注いでいるはずなのに、どうも私たちはそれをうまく使うことができません。
例えば、ソーラーカーレースに出場する車は、たいてい畳六畳分ぐらいの巨大な太陽電池を広げて走っています。あんな大きなパネルを背負っているのに意外にパワーがなく、加速は緩いし、悪路や坂道も苦手です。現状の太陽電池の効率がせいぜい20%程度なのは事実ですが、これが100%になったところで、その動力は原付の半分にも及びません。
そうなってしまうのは、太陽のエネルギーが地上ではとても薄いからです。スポーツカーのように力強く走り回れるだけの電力を供給しようとすると、50mプールのような面積の太陽電池が必要になってしまいます。
一方、動物たちはこの希薄なエネルギーをうまく集めて使っています。植物はとても効率よく太陽のエネルギーを取り込みますが、そのほとんどのエネルギーを炭水化物に換え、成長だけに使います。動物は、その植物をたくさん食べることによって、太陽エネルギーを濃縮し、動き回っているのです。ソーラーカーというと太陽電池だけで走る究極のエコカーを夢見てしまいますが、そんなことができるぐらいなら、とっくに地球上の植物は走り回っているでしょう。
古代の動植物たちが体に取り込んだ太陽エネルギーは、地中で濃縮されて石油や石炭になりました。それが私たちの文明の基盤です。結局私たち人類は、自然が濃縮してくれたエネルギーを浪費していくだけの存在なのでしょうか。
スケッチは1992年に東京大学で学生達といっしょに作ったソーラーカーのスケッチです。太陽のエネルギーの希薄さを体感する「脱力系」ソーラーカー。ヨットのように自然エネルギーと遊ぶための乗り物としてデザインしました。二人乗りで、後席はソーラーパネルを太陽の方向に向ける操作を担当します。無謀にも能登半島で行われたソーラーカーレースに出場しましたが、天候にも恵まれて完走し、「ソーラーエネルギー実用化賞」をもらったりしました。
[…] 山中俊治の「デザインの骨格」 ? 太陽が恋しい (via coluli) […]