断面だけは自由になる
写真は、2003年に私がデザインした椅子の背もたれです。瓦の重なりのように、同じ断面の部品がつながって、人を支える形になっています。
これらの部品は、「押し出し成形」という製造方法で作られました。溶けたアルミをいろいろな形の穴から押し出して、用途に応じた断面の棒を作る方法です。生クリームを星形の穴から押し出すのと似ていますが、溶けたアルミは出た端から冷えて固まって、どこを切っても同じ形のまっすぐな棒になります。
この技術は結構古く、戦後間もない頃に普及して、現在ではとても広く使われています。窓のサッシやドアのフレーム、パネルのガクブチ、ハードディスクのケース、新幹線のボディなどなど。
まっすぐな棒状のものしか作れないのですが、その断面はかなり自由になります。窓のサッシなども外から見るとただの角材に見えますが、切断してみると(普通はしないですが)ガラスを支えながらスムーズに開閉するために驚くほど複雑な断面が工夫されています。
この椅子では、断面だけは自由になる押し出し成形の特長を活かしたデザインを試みました。建築家の山本理顕氏がプロデュースするecomsと言うブランドで、静岡にあるSUSというアルミメーカーが製造、販売しています。
製造技術は、デザイナーにとって、時には大きな壁にもなる手強い相手ですが、その特性を楽しむように付き合うと、アイデアを刺激してくれる良いパートナーにもなります。