受け継がれるアイデア
Phasmaのオリジナルはスタンフォード大学で数年前に畑中君が制作したSprawl Robot。その後、アメリカの彼の友人達がそれを受け継いで改良、発展させたものを、takram design engineeringの畑中として、日本でさらに改良を加えて制作したそうです。この複雑な開発このプロセスは、Phasmaが、個人のアート作品ではなく、チームによって進められた科学研究の成果であることを物語っています。
アートの世界では、他人の作品を改良した作品を発表するというようなことは、(パロディやオマージュを意図的にやる場合を除いて、)あまり行われません。オリジナルの作家は他人によって改変されることを好まないし、後世の作家は過去の作品に似ないよう気を配るのが習慣になっています。
しかし工学の世界では、先人や先輩の業績を受け継いで少しづつ完成させるということは、ごく当たり前に行われています。もちろんオリジナリティは重要なのですが、すでに確認された知見に、オリジナルな要素を付け加えれば新発見と見なされるのです。そもそもエンジニアリングには、突然変異的に孤立した業績など、ほとんど存在しないのではないでしょうか。だから歴史的な大発明も、たいてい世界同時多発的に発生する。
ダ・ヴィンチのアイデアスケッチについて、ルネサンス期の彼以前のエンジニアによる元ネタが数多く存在することから、彼の「オリジナリティ」を疑う声があるそうです。しかし私には、そのことが、レオナルドが正統的な技術者であったことの証に思えます。
天候にも恵まれて、土曜日の畑中氏によるPhasma走行会は大変盛況でした。技術とアートの接点にいるデザイン・エンジニアの立ち位置があらわになった面白い講演だったと思います。