風のとおり道

Exhibition,Technology and Design — yam @ 7月 28, 2010 4:20 pm

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ダイソンの羽根のない扇風機は、ちょっと目には魔法のように見えます。リングの内面の細い隙間から、高速の空気を吐き出し、それが後方や周囲の空気を引きずって大きな風になって前に流れて行く。ばらしてみると高速空気の元となる小さなファンが根元にあって、上のリングに空気を送り込んでいます。

ある雑誌社の方が、リングが空洞なのを知って、何かちょっとがっかりとおっしゃっていました。しかし、むしろ何も入っていないというシンプルさにこの原理の素晴らしさがあります。原理的にはこのリングは円である必要はありません。角の丸い四角でもひょうたん型でも、あるいは花の形でも機能するでしょう。また、リングがとても軽く、安全であることも合わせると、レイアウトと形に大きな自由度を持つ送風原理だと言えるでしょう。

ダイソンさんとは以前からご縁があって、ダイソンのデザイン理念を伝える展覧会の私がディレクターとなりました。会期中に予定されているトークショーイベントと会わせてお知らせします。

どうやら、現時点でダイソンのエアマルチプライアーの新型「首長丸」と「縦長丸」(勝手に名けました、笑)の実物を見られるのは、この展覧会場だけらしいですね。開発中に作られたプロトタイプや開発過程のビデオなども展示されていますので、銀座でお買い物の際には是非お立ち寄り下さい。

第667回デザインギャラリー1953企画展

「風のとおり道 ― エアマルチプライアーにおけるダイソンの新たな挑戦」

ダイソン社は、常に全く新しいものを商品化する。あたりまえの事のようだが、実はこれができる企業はめったにない。なぜなら資本主義は、たくさんの企業が互いに微妙な差異でマーケットを奪い合う事を是としており、そのような孤高な使命を必ずしも企業に要求していないからだ。だからこそ、彼らの作る物は常に圧倒的である。

会期:2010年7月21日(水)〜8月16日(月) 朝10時〜夜8時、最終日午後5時閉場
主催:日本デザインコミッティー
展覧会ディレクション:山中俊治

山中俊治 × Martin Peekトークショー:ダイソンのデザインと技術力

日時:7月30日(金)午後6時~7時
場所:アップルストア銀座 3階・シアター 〒104-0061 中央区銀座3-5-12
出演:山中俊治(デザイナー)、Martin Peek(Dyson Senior design engineer)
参加費:無料(事前予約不要)

※当日は、5時40分より入場ご案内を開始しますので、アップルストア銀座の担当者の指示に従っていただき、ご入場下さい。着席は来場順に先着80名様までのご案内となります。お立ち見でもご覧いただけます。

奇人天才シリーズその5:佐藤雅彦さん

Exhibition,Genius — yam @ 7月 17, 2010 3:45 pm

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佐藤雅彦研究室は、慶應義塾大学SFCでは一つの伝説になっています。大変な人気研究室で、所属を希望する学生は百人を超え、毎学期大教室で選抜試験が行われたそうです。試験科目には数学も含まれていて、佐藤研究室に入ることの方がSFCに入る事よりも遥かに難しいと言われていました。

佐藤さんと学生達が生み出した様々な傑作はここで紹介するまでもないと思います。「動け演算」、「ピタゴラスイッチ」、「日本のスイッチ」、「任意の点P」、「フレーミー」、「差分」…。一昼夜かけてピタゴラスイッチを作る合宿などもあったそうです。間とリズムが印象的な傑作CMをたくさん世に送り出した佐藤さんですが、研究室では日常感覚を数学的抽象で研ぎ澄まし、心にひびくアニメーションや絵本を作りました。

授業も大盛況で、300人が入る教室はいつも満席。佐藤さんが右手にケガをして左手で黒板に文字を書いていたとき、文章の途中で黒板の端まで来たらそのまま横の壁に文字を書きつづけていったというような逸話も残っています。

佐藤雅彦さんは、人見知りをされる事でも有名です。何度かお会いしたことがあるのですが、毎回、初対面のよう。ありきたりの話題にはほとんど関心を示さない方ですし、すぐに黙ってしまわれるので、たちまち間が持たなくなってしまいます。ところが、ご自身がそのときに一番関心を持っている話題にこちらが触れると、突然関を切ったように早口で話しはじめます。その瞬間に居合わせた人は、この人の天才的思考の一端に触れる幸運に恵まれます。

先日お会いした時は、計画中の展覧会のアイデアについての怒濤のお話に出くわしました。自分の境界線、属性、自分がカテゴライズされる事の意味、鏡の向こう側の自分、自分の一部が他人に利用される事の恐怖、などなど、圧倒されるような思索の連鎖。

そのときの話題が、「これも自分と認めざるをえない」展。21_21 DESIGN SIGHTで16日から開催されました。入場者は最初に自分を登録して、様々な体験型展示物の間を歩いて回ります。骨展でもお世話になったコーディネーターの田中みゆきさんいわく「健康診断」あるいは「注文の多い料理店」。人々が、床に引かれた矢印に沿って、自分に関する何かを教えてくれるさまざまな装置を順に巡って歩く様は、確かに人間ドックのようです。

先日の内覧会は大変込み合っていたので、佐藤さんは、多くの人がちゃんと体験できているかどうかが気になって走り回っていました。込み合ってない平日の昼間がねらい目です。

あ、ひとつだけ。自分の名前を登録するときには、ちゃんと氏名を漢字で入れましょう。その方がより深く自分と向き合えそうです。

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