有人小惑星探査船 その1

Technology and Design — yam @ 1月 3, 2012 1:06 am

2012年の最初のエントリーは初夢っぽく、慶應SFCで研究してきた有人小惑星探査船の話をします。長い夢物語になるので3回に分けてアップしたいと思います。

きっかけはアーティストの八谷さんから私宛のツイッターでした。宇宙機のデザインに興味を持っている航空宇宙関係の技術者を紹介したいと(「航空宇宙のデザイン始めます」参照)。その人は野田篤司さん。過去にいくつも実現した衛星プロジェクトを指揮してきた高名な技術者です。その方が「カッコイイ宇宙機」を作りたいという夢をずっと持っているというのです。実際にお会いしてすっかり意気投合してしまいました。それから1年半以上、「美しい宇宙船」を作ることの意味と可能性について議論を重ねています。

そのツイッターのやり取りを見て声をかけてくれた雑誌の編集者さんがいました。講談社コミックモーニングの佐渡島庸平さん。佐渡島さんが担当しているマンガ「宇宙兄弟」のムック本「We are 宇宙兄弟」に宇宙機のデザインプロセスを連載してみないかとメールをいただきました。ばたばたと連載が決まり、宇宙と宇宙機について野田さんのレクチャーを受けながら、デザインスタディとして有人小惑星探査ロケットをデザインして、その経過を連載してみることにしました。それがちょうど1年前です。写真はその最新号にも掲載したモックアップです。

宇宙開発の専門家である野田さんと構想を議論し始めてまず驚いたのは、通常の乗り物とは全く計画の手順が違うことでした。いわゆる商品として乗用車やバイクを計画するときには、目標となる運動性能や人や荷物の積載量、使い方などを検討する所から始めます。

有人ロケットもそこが決まらなければ、デザインできないのは同じですが、最初に野田さんが始めたことは「行く先」を決めることでした。数百ある小惑星の軌道と地球との位置関係から、それぞれの小惑星に最も短い時間で行けるタイミングを、2020年から40年間に渡ってシラミ潰しに計算して行くのです。目標はできるだけ少ない燃料で、できるだけ短い時間で(できれば6ヶ月以内で)帰って来れるルートを探すこと。

考えてみれば、1回しか使わないロケットを設計する以上、当たり前のことだったのですが、これまで私がデザインしてきた乗り物の行き先や出発日は買った人が決めるものだったので、あまりに計画手順が違って感動しました。

そんな私の感動をよそに、野田さんがその膨大な計算結果の中から淡々と選んでくれたターゲット候補は3つ。小惑星2006 QQ56(2050年3月9日に地球を出発し、9月3日に帰還)、小惑星1999 AO10(2025年9月1日に地球を出発し、2026年2月27日に帰還)、小惑星2001 QJ142(2047年4月24日に地球を出発し、10月20日に帰還)。それぞれに推進剤の量や、宇宙飛行士の宇宙滞在時間が計算され、それを元にタンクの大きさやエンジンの大きさが決まって行きます。

2050年(!)という遠い未来の日付を見て、自分が今、どんなに途方もないものをデザインしようとしているかを思い知らされました。

その2に続きます。

*写真:清水行雄

3 Comments »

  1. 更新を楽しみにしていました

    最初の写真はCGかと思っていたら実物を写真で撮ったものだったのですね。驚きました。

    燃料タンクについてお聞きしたいのですが。このタンクは不要になったら切り離すのでしょうか?
    だとしたら、進行方向と逆向きに切り離すタンクは問題にならないと思いますが、進行方向と逆向きに取り付けられているタンクを切り離す場合は人工衛星の本体は減速してしまうのではないでしょうか?

    コメント by takahsy — 1月 3, 2012 @ 11:03 am
  2. takahsyさん

    ちゃんと計算したわけではありませんが、慣性航行中であれば、ロックを外して小さな力で押してやるだけでそのままゆっくり離れていくので、反力はほとんど問題にならないと思います。
    コメントをありがとうございました。

    コメント by yam — 1月 4, 2012 @ 4:28 pm
  3. […] 山中俊治の「デザインの骨格」 ? 有人小惑星探査船 その1 (via odakin) […]

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