ぐっばい。スティーブ・ジョブズ
会いたいと思っていた人に、結局、会えないまま終わってしまった。悲しいのかどうかさえわからないが、確かな喪失感がある。
スタンフォードの卒業式での伝説的なスピーチは、iPodでいつも聞いていた。
Connecting dotsという美しい響きの言葉から始まる「過去から見れば、ばらばらにしか見えないことも、未来から振り返って見れば見事につながっている」という一節を聞いては、行き当たりばったりだった自分の若い頃を思い、それをつなげてみた。
「私は偉大なタイポグラフィーが偉大たる所以を学んだ…」というくだりに込められた繊細なものへの愛が好きだった。
「毎日今日が最後の日だと思って生きれば、ある日それは本当になる」には笑った。
「君たちの時間は限られてる。人生を無駄にしては行けない…」以下の言葉にはいつも奮い立たされた。
こんなに何度も何度も聞いたスピーチは他にない。部分的に暗唱できるほどだ。このスピーチの冒頭にTruth be told(ホントのことを言うとね)で始まる一文がある。私がNYで講演を行ったとき、この言葉を冒頭で使ってみたことがある。それを聞いたネイティブの友人は、その言い回しはあまりスピーチにはふさわしくないよと教えてくれた。スティーブのフランクさをまねるのは難しい。
伝聞に過ぎないが、スティーブは、私がアップルのためにデザインしたDrawing Boardを見て「使い物になるのはこれだけだ」と言ったそうだ。アップルの木田さんは「スティーブが他人が作ったものに与える言葉としては、最大限の褒め言葉ですよ」と教えてくれた。
私はここ数年、アップルのデザインが、スティーブの美意識がいかにすごい物であるかを、はばかる事なく話して来た。言うまでもなくそれは、1人のデザイナーとしては敗北だと思う。彼の製品を賞賛するたびに、打ちのめされる自分がいる。賞賛しながら私は、一度もスティーブに面会を求める行動を起こさなかった。もしかすると私は、スティーブが絶賛してくれるようなものを作らない限り、彼に会うことができないと、勝手に思い込んでいたのかもしれない。我ながら屈折している。
スティーブはそのスピーチの中で、こんなことも言う。
Death is very likely the single best invention of Life. It is Life’s change agent. It clears out the old to make way for the new.(死は、生命がなした最も重要な発明に違いない。死は変化の担い手であり、新しいものに道を与えるために、古いものを消し去るのだ。)
その言葉の通りにスティーブは、「古きもの」として去って行ってしまった。少なくとも私は、私が作った物をもう一度、スティーブに見て欲しいという思いからは、離れなければならない。私に、「新しきもの」として道を造る力が、まだある事を祈りながら。
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このスピーチは人生で悩んだ場面でよく聴いていました。
私が好きなフレーズは
“Keep Looking, don’t settle.
/ 自分がやるべきことを探し続けなさい、決して立ち止まることなく。”
です。
Appleの新製品が発表される度に、一体どんな人たちがこれを生み出しているんだろうと深く考えるようになりました。ただ、それらが生み出されている土地の空気を知りたくて今年の6月にクパチーノのアップル本社を訪問したこともありました。
ああここでSteveと彼の仲間達が働いているのかと思いを馳せて、自分のがんばりを鼓舞したりもしました。
今、僕らにできることはSteveの意志を受け継いで、ただただ新しいモノや新しい世界をつくること。
ただただ愚直にそれを続けていきたいな、とSteveの冥福を祈りながら、改めて決意しました。
赤羽さん
コメントありがとうございます。山中です。
その言葉も確かに印象的ですね。
私も立ち止まらず、探し続けたいと思います。
山中様
こんにちわ。本当に喪失した日でした。
これまで創造する理想の形を見せ続けてきてくださった偉大な方でした。
周囲が情熱を見失っている中で、私の気持ちが保てたのはこの方がいたからこそ。
けっしてあきらめない事が最高の成功者の条件、と言葉だけではない言葉。
おおきく世界の生活が変わりましたよね。当初はもう遅くて遅くてじっと我慢するマシンだった。
しかしその愛嬌あるグラフィックはまるで友達のようだった。
今日、私はG3とG4を解体しました。G3はハンガリーのハード、G4はシンガポール製。
これがなんとなくアップル社の飛躍を物語っていたと感慨深くさせられました。
Arai Tmokoさん
お久しぶりです。
本当に大きな人を失いました。
もう十分だったのかもしれないけど、ずっといてほしかった人。
製品を解体しながら彼を想う。素敵ですね。
私もそうします。