描線は、これから生まれるものの「舞」である

Sketches,Works — yam @ 8月 5, 2010 12:59 pm

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描線は、絵の上の形を表す輪郭であると同時に身体の運動でもあります。水墨画の達人の筆運びはまるで舞のようですし、絵画では「何を描くか」から解き放たれた純粋なストロークが、芸術として一分野を形成しています。

実際、手描きのスケッチを多用していると、時として頭の中にもなかったことが、手の運動の結果として、画面上に現れます。私のスケッチは、あくまでもなにかを構想するための手段なので、多くの場合はこうした線にはさほど意味がありません。

しかし、あることに気をつければ、手の運動の軌跡が、紙の上で意味のある形をなし、アイデアの創出につながります。それは、描こうとする対象の構造やふるまいを、自分の身体感覚として認識することです。

そのために私は、ものが使用されている時の動きを観察し、スケッチし、自分でもやってみます。自分が手にした時の重量感や、操作した時の抵抗や滑らかさ、堅さや強さの感触なども重要です。時には工場に出かけて、組み立てられて行く時の様々な部品の動きなども、そのリズムが自分に刻み込まれるまで長い時間見つめます。

そうやって、いろいろ体験していると、ものの成り立ちが自分の身体感覚としてわかってきます。それをイメージしながら手を動かすと、描線が、構造のラインとなり、機能の表現になるのです。

その感覚は、物のふるまいを、身振り手振りで表現するのに似ています。そういう意味では、デザインのための描線も、これから生まれるものを演じる「舞」なのだと思います。

スケッチは、昨年コクヨから発売されたオフィスチェア “AVEIN” の構造をイメージしたものです。クッションとクッションの間を流動する空気の動きがそのまま、構造体のイメージになりました。この描線が、多くの人の快適さにつながりますように。

2 Comments »

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  2. 山中さん

    こんにちわ。
    まさにデザインするときのその筆の振り幅や曲線、
    そしてその描かれるリズム感は、
    人間の行動範囲やタイム感が凝縮されている気がします。

    そして昨日、夕刻に由比ケ浜に行ったのですが・・・
    うっすらと夕焼けの「オレンジ」と夜の「ネイビー」の境界線は美しい物でした。
    先日のブログ、「青空の大きさ」にあった地平線や青空の距離についても
    実際に見てきましたが、星のある位置などをみると空気のなくなる場所は
    何となく検討はつくように見えました。

    コメント by Tomoko ARai(PUNTO_GRAFICA) — 8月 8, 2010 @ 6:23 pm

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