航空宇宙のデザイン始めます

Daily Science,Sketches — yam @ 6月 21, 2010 12:03 am

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はやぶさの帰還のニュースを聞きながら、やはり航空宇宙技術にはもっとデザインが必要だと思いました。

多くの人たちがあの機械装置を擬人化して感動を表現しています。私はその現象に、デザインへの渇望のようなものを感じました。もしこのマシンが航空機のような、洗練された機能美を持っていたら、ゆっくりと光を受けながら回転するドキュメンタリーだけで印象的な映像となるでしょう。ロマンを語るのに、表情を付けたり身震いをさせてみたりしたくなるのは何かが足りないのではないでしょうか。今回の帰還を通じて、宇宙開発の原点が技術ロマンである事を私たちは再確認しました。ロマンには、それにふさわしい姿があるように思います。

例えば、城郭や戦艦は機能を最優先して設計されるものですが、一方で、いつの時代も威厳や戦意高揚のためのデザインにも一定のコストがかけられてきました。宇宙開発が人々に希望を与える事業である以上、その希望を視覚化するためのコストは、科学振興の意味でも必要なものだと私は考えます。新幹線のパンタグラフだろうと、ジェット機のフラップだろうと、人の意思が入る余地が全くないほど、厳密に最適形状が決定されるわけではありません。美しくない設計は、多くの場合、美しくする気がないか、美しくする余裕がないかのいずれかであると思います。

機能の最適化に全力で取り組んでいる技術者からは、「以前デザイナーを入れたら箸にも棒にもかからない提案されて、時間の無駄だった」という経験談も良く聞きます。そういう技術者の方に、デザインとは本来そのような物ではないというお話をするところから私の仕事が始まります。機能的な形状を純化しつつ、ほんの少し手を加えるだけでこの上なく美しくなる場所を発見し、それを起点にしたいと思います。デザインの余地なんかないと関係者が思い込んでいる世界ほど、デザインがやれる事がたくさん見つかる物なのです。

十年近く前に、種子島でH-IIAの発射を見学させてもらったことがあります。その感動的な光景は今も眼に焼き付いています。種子島は世界一美しいスペースポートといわれているそうです。それにふさわしい、世界一美しいロケットや人工衛星を目指して挑戦してみたいと思います。

こんな事をtwitter @Yam_eyeでつぶやいていたら、ありがたいことに八谷@hachiyaさんから、JAXAの@madnodaさんを紹介いただきました。まずはお話を聞きながら私にできそうな事を見つけたいと思います。義足の時もそうでした。デザインの力を信じて動けば、きっと糸口は見つかるでしょう。

上のイラストは、90年代半ばに雑誌AXISのために描いた、重力がほとんどない環境下のリビングルームです(後に「フューチャー・スタイル」に収録)。タイトルは「微小重力の部屋」。

コントロール・モーメント・ジャイロという人工衛星の姿勢制御技術を用いて自由に空中配置される家電製品や、猫ひねりと呼ばれる方法で空中姿勢を変えるロボット、ゆっくり自転して遠心力で形状を保つスクリーンなどが描かれています。人工衛星のような家具が、自分の部屋に浮かんでいるのを想像すると、うれしくなりませんか。

7 Comments »

  1. […] This post was mentioned on Twitter by 「い」, Junko Kunihiro, 本橋ゆうこ, オカムラコウタロウ, 084hiropii and others. 084hiropii said: RT @Yam_eye: ブログアップです。「航空宇宙のデザイン始めます」 http://bit.ly/d8vrA4 […]

  2.  私はエンジニア出身でデザインにも興味がある者です。私も無理矢理擬人化したり、機能性を軽視して外観形状で遊ぶという手法に馴染めず、浮遊しております。山中さんの作品からは、機能性の延長線上にある美しさを追求されているように感じ、いつも楽しみにしております。
     私は、大気圏を単独で通過する必要がない人工衛星に関しては、航空機のような姿を与えることによって、内部実装スペースの減少という、この分野としては大きな問題を招くことになるのではないかと考えています。小型軽量化を最重要として美しい構造や実装を追求される方が良いのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

    コメント by uno — 6月 21, 2010 @ 7:19 am
  3. unoさま
    山中さんの書く
    >>航空機のような姿…
    は、「航空機に似せる」ではなく「せめて現在の航空機に匹敵する洗練度」の意味ではないでしょうか。

    >>小型軽量化を最重要として
    想像するに、宇宙機の設計(デザイン)を掣肘するのは、まず余分な振動・熱・電荷などを地面や空気や水には安易に預けられない(earthできない)こと。ついで、製造・流通・使用に相当する打ち上げ過程でG・温度・気圧ほか諸々の環境条件が激変することでしょう。そしてもっと多くの、想像もしていない具体的諸条件。「小型軽量」もそこから派生する多数の要素のひとつにすぎないように思えます。
    「美しくする余裕」が本当にないのか。存在するならどこにどれだけなのか。なにが余裕を削っているのか。そういった意識を技術者達と共有できてやっと「箸にも棒にもかからない飾り付け」でないデザインの力に説得力を持たせることができるのでしょうね。

    ソユーズやアポロ並みに洗練された日本製の宇宙機、なんてワクワクしますね。

    コメント by 三谷祐二 — 6月 22, 2010 @ 3:27 am
  4. unoさん

    すでに三谷さんが代わりに答えてくれていますが、私はもし探査機が機能だけでなく「機能に美的洗練を加えた設計」であったならという意味で、飛行機を引き合いに出しました。決して人工衛星の形を飛行機に似せたいという意味ではありません。航空機に似せる事の無意味さはおっしゃる通りだと思います。舌足らずだったようで申し訳ありませんでした。

    飛行機を比較対象としたのは、飛行機の設計が美的に配慮された物である事が前提になっています。それについては「ジャンボに込められた美意識」を参考にして下さい。

    ご意見ありがとうございました。

    コメント by yam — 6月 22, 2010 @ 8:02 am
  5. 三谷さん、ていねいな補足をありがとうございます。

    私自身、人工衛星に美意識を持ち込むことについては、自信が持てずにいました。しかし、今回twitterで発言してみて、JAXA内にも、欧米のようなかっこいい衛星を作りたいと考えている人がいた事で、やれることがあるのかもしれないと思うようになりました。これからも応援して下さい。

    コメント by yam — 6月 22, 2010 @ 8:31 am
  6.  三谷さん、はじめまして。三谷さん、山中さんご回答ありがとうございます。
     私も宇宙空間の航行や惑星への離着陸において、私たちの想像の及ばない問題が生まれてきて、次回にそれを踏まえて想像力を働かせ、新たなパラメーターを加え最適設計し、可能な範囲で実験して、、、の繰り返しで、例えようの無い想像もしなかった美しい形が生まれることを楽しみにしています。
     私が小型軽量化を挙げたのは、今後もメインとなるロケットを用いた打ち上げ手段では、体積、質量ともに小さい方がコストメリットがあり、あの方々に仕分けられにくいと思うからです。挑戦し続ける為には、研究開発を継続できることが最重要と考えます。
     世界を牽引するような創造的な衛星や宇宙船を期待しています。

    コメント by uno — 6月 25, 2010 @ 1:50 am
  7. […] きっかけはアーティストの八谷さんから私宛のツイッターでした。宇宙機のデザインに興味を持っている航空宇宙関係の技術者を紹介したいと(「航空宇宙のデザイン始めます」参照)。その人は野田篤司さん。過去にいくつも実現した衛星プロジェクトを指揮してきた高名な技術者です。その方が「カッコイイ宇宙機」を作りたいという夢をずっと持っているというのです。実際にお会いしてすっかり意気投合してしまいました。それから1年半以上、「美しい宇宙船」を作ることの意味と可能性について議論を重ねています。 […]

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