アリの勇者

Off — yam @ 4月 4, 2010 11:59 pm

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私のアトリエは山の中腹にあって、とても平穏な空気に包まれているのですが、時として自然はどきりとするような厳しい光景を見せつけてくれます。アトリエは常に自然界からの浸食を受けており、時々大型のクモやムカデなども入り込んできます。昨日の侵入者はアリの勇者でした。

頭が二つの気持ち悪いアリがいると娘が叫ぶので見に行くと、確かにおかしなアリがいます。体調は12、3ミリの大型のアリなのですが、頭の上にもうひとつ頭らしき物が。かなり弱っていたのでじっくり観察してみると、どうやら左の触覚のつけねに、別のアリの頭が右の方から噛み付いたかたちでのっかっているらしい。

勝手な想像なのですが、おそらくこのアリは、今や頭だけになってしまったもう一匹の少し小柄な個体と戦ったのではないでしょうか。

かろうじて勝利はおさめたものの、敵の頭はいまだにこのアリの触覚から離れない。そうだとすると、なかなか壮絶な光景です。激しい戦いを想像してしまいますね。倒した敵の頭蓋骨を身につけている勇者にも見えなくもない。

取ってやることも考えたのですが、自然の営みと昆虫の生命力に敬意を表して、そのまま土の上に戻すことにしました。無事に生き延びたでしょうか。

ところでこのアリの種名、ご存知の方いますか?

まだら模様の数学原理

Daily Science — yam @ 4月 2, 2010 12:01 am

turingpattern

チューリング・パターンという生物の体の模様の古典的な数学シミュレーションがあります。

まあ素人なりの理解で乱暴に説明すると、お互いに反応をおさえたり強くしたりする影響力を持つ二つの化学反応が同時に広がって行くときに、その広がりに周期的なムラができるというものです。波紋の重ね合わせやモアレにちょっと似た現象ですが、「お互いに影響し合う」ってところがみそで、その影響の度合いをうまく調整すると、ヒョウ柄やシマウマ柄、熱帯魚の模様などの様々なパターンが現れます。

「反応拡散波」っていうSFっぽい名前がついているこの現象についての理論はコンピュータサイエンスの父と呼ばれる英国の数学者、アラン・チューリングが1952年に発表しました。この人は20代の頃、まだコンピュータが存在しない1930年代に、何でも計算できる万能装置が存在しうる事を数学的に証明して、コンピュータの理論的基礎を築いた人です。戦時中、ナチスの暗号を解いて連合軍を勝利に導いた事でも有名なので、その天才ぶりは半端じゃないです。

しかし、彼が42歳で亡くなる少し前に発表されたチューリング・パターンについては、未完成な研究に終わってしまったこともあって、それほど知られないままになっていました。生き物っぽいパターンは作れるものの、実際にそういうことが起こっているとは、最近まで生物学者も信じていなかったようです。

ところが、半世紀近くを経た1995年に近藤滋さん(現名古屋大学教授)が、熱帯魚の体表パターンがチューリングの提唱した原理で形成されていくことを実験で確認して、状況が一変します。現在では、この理論を体表の模様だけでなく、生物の体を作る基本原理だと考えている生物学者も少なくないようです。例えば生物の体に良く現れる繰り返しのパターン、体節や脊椎などのリズムも、こうした化学反応の波がきっかけになって生まれるのではないかと。

これは、生物のデザインにおいては皮膚の模様も骨格構造も同じ原理で作られているということを示唆します。構造設計と表面処理を別々に考えてしまいがちなデザイナーから見ると、いつもながら自然界の統一的な創造原理ってすごいですね。もっとも、その理論を晩年にことのついでみたいに発表してしまうチューリングもすごいけど。

生物のパターンを装飾としてプロダクトに刻み付けるのではなく、美しいパターンが生まれるような製造プロセス自体を考案する。そうありたいものです。

画像はwikipediaより。

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