手元を見て学んでもらうしかないとき

SFC — yam @ 4月 27, 2010 10:48 am

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大学の教員である前にデザイナーである私は、学生達と進める研究プロジェクトにおいても、私自身が対象物をデザインしてしまうことが少なくありません。

走行用義足のプロジェクトの中でも、膝継手(上の写真)の開発においては、私自身がスケッチを描き、CADデータも作成しました。

調査活動や議論の段階では学生達に積極的に参加してもらいましたし、義肢装具士や切断者達との折衝も学生達が中心になって行ってきました。メーカーとの会議にも学生達は参加していて、彼らのアイデアが実用化につながった部品もあります。

教育としては、学生達に自由にデザインさせながら、助言し、見守り、彼らなりの成長を促す事が好ましいでしょう。実際、私のワークショップ形式の授業では、そのような形で進めるのが普通です。

しかし膝継手の設計は、学生には難易度が高すぎました。バイオメカニクスの先端にあり、高度な製造技術による精密機械でもあり、その上、厚生労働省の資金によるメーカーとの共同開発プロジェクトなので、スケジュールは厳守なのです。

例えば上の写真の小さな部品の多くは既存の市販部品ですが、その選定理由を知った上で、メーカーのエンジニアが作成したレイアウト図の意図を的確に読み取り、見た目と機能を同時に向上させる再配置を、非常に短期間で逆提案する必要がありました。もちろん、それぞれの部品の加工可能性も配慮されなければなりません。

最終的には「客に出すものは、料理長がやるしかない」状態になりました。こういう時は、私の手元を見てろとしか言いようがないので、できるだけ学生達の目の前でスケッチを描き、刻々とCADデータを見せるようにします。質問があれば語りながら設計を進めることも。

だから学期の始めに研究室の学生達に話します。「場合によっては私がデザインしてしまう。しかし、その時こそ学べるチャンスなので、私の一挙手一投足を見逃すな」と。

本音を言うと責任のかかった中での模範演技は、結構しんどい。

5 Comments »

  1. 生で、スケッチを描きCADデータが出来ていく過程が見れる、学生さんたちが羨ましいです。

    コメント by Ryo — 4月 27, 2010 @ 5:36 pm
  2. すごいですね、、本当に羨ましい。
    宮大工の徒弟関係のようですね。
    手元を見れる機会はやはり多くありません。そして聞くと見るでは大違い、本当に学ぶ事だらけです。
    いいですねぇ。

    コメント by ma — 4月 28, 2010 @ 4:45 pm
  3. まったく、羨ましい。
    企業にいても先輩がどのようなプロセスでモノを作り上げていくのかということを“手元”を見ながら学べる機会はありません。
    “私の一挙手一投足を見逃すな”と自らの技量への自負と後続を育てる責任感を持つ師匠と出会えたら。
    それはとてつもなく幸運なことだと思います。

    コメント by kzm — 4月 29, 2010 @ 9:52 pm
  4. ryoさん
    maさん
    kzmさん

    コメントありがとうございます。
    個別の回答でなくてごめんなさい。

    実際、デザインなんて、そう粛々と進む物ではありませんから、私自身迷うし、間違うし、ひやひやものです。
    先日卒業していく学生に、以前に目の前で描いてみせたスケッチを、あらためて卒業記念にプレゼントしました。
    そしたら、その中の一枚を見て、「先生この時は完全に機能を勘違いしてましたよね」って、うれしそうにしてました。
    恥ずかし。

    コメント by yam — 4月 29, 2010 @ 10:11 pm
  5. […] This post was mentioned on Twitter by 近藤哲朗, s.K., moiton, 江口海里, takeo yamamoto and others. takeo yamamoto said: RT @Yam_eye: 走行用膝継手の分解写真をアップした。http://lleedd.main.jp/blog/2010/04/27/watch_me/ […]

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