フィールドテスト

SFC,Sketches — yam @ 3月 19, 2010 1:40 pm

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フィールドテストに立ち会いながら、二つのことをとてもうれしく思いました。

ひとつは、迷惑をかけてばかりとはいえ、うちの学生が義肢制作の現場に受け入れられ、義肢装具士の方の指導をあおぎながら一緒に作業していたこと。

もうひとつは、若い義足ランナーが、私たちのデザインした義足で何度もトラックを走ってくれて最後に、「今日は本当に楽しかった」と話してくれたこと。

どちらも、義足製作や障害者スポーツの場を、初めて見学したときに思い描いた光景でした。しかし、その時点ではデザイナーがほとんど関わっていないこの医療現場に、私たちが受け入れられる可能性については全く自信が持てませんでした。

デザインは、適切に機能すれば、いかなる場面いかなる場所においても、少なからず人を幸せな気分にする力を持っています。それは、ささやかな幸せかもしれませんが、その力は決して無力なものではありません。しかし同時に、しばしばデザインが「余裕がある人のためのもの」としか理解されていない場も経験してきました。そういうデザインの空白エリアを見つけては、首を突っ込むのは私の性なのですが。

実際に関わり始めてみると、私たちの知らないことがあまりにも多く、何ができるのかを探るところから始めざるを得ませんでした。私と学生達は義肢製作の現場、学会やリハビリセンターなどに足を運び、研究者や医療従事者を訪ねて義肢についての勉強を始めました。ヘルス・エンジェルスという下肢切断者を中心とするスポーツクラブの練習会などに何度も参加し、学生達も一緒に身体を動かしながら、何が必要とされているかを考えてきました。

人との接し方やプロジェクトの進め方には学生達もだいぶ悩んだみたいで、時には無力感も感じ、研究室で学生同士が激しく言い争う場面も少なくなくなかったようです。他のチームメンバーから「義肢チームはいつもギシギシしてる」などという、笑えない報告を何度聞かされたことか。

手探りの一年半でしたが、文字通り走り始めたことを実感できるこのごろです。

4 Comments »

  1. コメント入れすぎですみません m(_ _)m..

    感動です。拝読するとなんとも素晴らしい経験をしている学生さん達だと感じます。

    とかくデザインが表面的に見られるのは苦々しい一面ですね。
    でも間違いなく必要なものであり、今回のお話しは正にその典型だと感じます。
    デザインは効果を促すものでもあると思います。。
    機能面もそうですし精神的にもです。
    機能美であって必然美です。
    美とは贅沢を意味するものではない。素材や形状、装着感などを突き詰めると使う本人の意識に作用する一体感を表すものではないでしょうか。

    試行錯誤を経て完成し、それを付けて走るランナーさんは、きっと新しい風を感じると思います。

    コメント by co — 3月 20, 2010 @ 12:30 am
  2. はじめまして、いつも楽しみに拝見しています。
    私はデザインの素人ですが、若いデザイナーの方々が保守的な流行事・絵空事の提案をする中で、山中さんの提案は革新的で高安定な美しさを感じます。先日の写真のように完成度の高い可動サンプルがあることに驚きました。(1点、キャップボルトの頭の出っ張りに違和感を覚えました。工具穴の強度重視の為でしょうか?)
    板バネに蓄えたエネルギーを生かして、ジャマイカのボルト選手と競り合う選手が出てくると楽しいですね。

    コメント by uno — 3月 21, 2010 @ 11:08 pm
  3. coさん

    実際、この体験を通じて学生達がどんどん成長して行くのが実感できる事は、私の喜びでもあります。
    この年齢の人間って、まさしく「三日会わざれば刮目して見よ」ですね。

    コメント by yam — 3月 21, 2010 @ 11:57 pm
  4. unoさん

    コメントありがとうございます。

    「キャップボルトの頭の出っ張り」については、鋭いご指摘としか言いようがありません。
    特に下段の奴は、実は標準的なボルトのねじ込みスペースを本体側に取り損ねたデザイン上のミスで、頭が突出してしまいました。いずれ修正したいと思っていますので、笑って許して下さい。

    コメント by yam — 3月 22, 2010 @ 12:03 am

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