薄く作ると重くなる
坂井直樹さんとの対談のために、XD展を訪れた漫画家のしりあがり寿さんは、パナソニックのレッツノートを抱えていました。「やっぱり軽いので」だそうです。そのボディの深い凹凸を眺めながら、以前にこんな発言をしたのを思い出しました。
ノートパソコンは、薄く作ると重くなる。
薄くフラットであることは、実は剛性の点では不利です。簡単に言うと曲がりやすくなります。パソコンには繊細な部品がたくさん入っていて、大きな変形は致命傷になりかねないので、アップルは、MacBookのためにアルミの塊からボディを削りだして非常に剛性の高いボディを作りました。薄くても簡単には曲がらない魅力的なボディを実現したのですが、結果的に少々重くなってしまっているのは事実です。
その点、レッツノートは薄さと画面の広さをかなぐり捨てて、軽さ、丈夫さに徹しています。まず、小さめのディスプレイを使い、部品を厚めにレイアウトして、全体をごろんとさせることで、曲がりにくくしています。その上でボディ表面に深い凹凸を刻み付けて、さらに剛性を上げます。凹凸のための空間は必要になりますが、その分ボディを作る材料そのものは少なくできるので、さらに軽くなります。一見逆説的ですが、ノートパソコンは同じ中身なら、全体が分厚い方が軽く作れるのです。
友人の勝間和代さんも、もう何世代もレッツノートを使っています。私は、しりあがりさんや勝間さんのように活動的な人に、MacBookを勧める気にはなりません。これはもうターゲットが違うとしか言いようがない。
パナソニックがこの路線にはっきりターゲットをしぼり始めた2003年頃に、レッツノートのデザイナーと対談したことがありました。「本当はmacのように薄くフラットに作りたいんですけど、軽くするために仕方がないんですよ」と、ぽろっと言ってしまったデザイナーさんに、私はこう答えました。「軽くて丈夫に徹するっていいじゃないですか。それを残念な制約と思う必要はないでしょう。胸を張って分厚くて凹凸のあるデザインを追求して下さい」。
その頃からずっと、軽くて丈夫で分厚くてごつごつしたデザインであり続けるレッツノートは、間違いなく存在価値のある商品だと思います。
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ところで、XD eXhibition 10も今日が最終日。今日のトークショーは脇田先生とIAMAS(岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)准教授、小林茂さんのばりばり電子工作対決です。フィジカル・コンピューティングに興味のある人は是非。
昨日は有難うございます。
この話は興味深いですね。
ラップトップ故障の原因で、落下以外に、満員電車等での筐体のねじれ圧による破損が凄く多いという話を聞いたことがあります。
ビジネスマンに大人気のレッツノートはそういったケースも想定されてあのかたちが与えられているのでしょうね。
製品開発の現場では市場に定着した価値基準からデザインをスタートしがちなので、今回の話は凄く参考になります。
XD eXhibitionはいかがでしたでしょうか。
一般の素人ながらぜひ行きたいと思っていたのですが、
行けなくて残念でした。
さて。「薄くすれば重くなる」とは、なるほどそうですね。たしかに。
そしてLetsNoteのあの溝がかの理由だったとは言われて納得です。
単に薄い天板アルミの「ヘコミ」対策かアクセントかと思っていました。
理由がデザインとなる、ですね。機能美のジャンルです。
ふと思い出しましたが、IBM製Macノート2400。
名機と呼ぶには賛否両論でしたが、日本メインの製品で高い支持がありました。
当時はもっともコンパクトで軽かった。
車社会のアメリカでは小さくする理由が理解できなかったようで、
それからAirが出るまで10年以上かかりました。
時に、「人の感覚の差異」が製品への意識の違いとなるのかなと感じました。
ヒトからモノを手渡される時に両手を添える(添える気持ちになる)日本人。
比較的元気に(笑)扱う外国人。
潜在的にモロいと感じるモノを扱う事に対しても、こんな人種の差や、
個々の性格に至るまで大きな差があります。
その最大公約数を作らなければならないのですね。。。
モノづくりというのは、本当に大変な作業なのだと感じます。
安全があってデザイン、そして何より売れなければならないのですから。
kugehajimeさん
山中です。XDの展覧会に来場頂き、ありがとうございました。
お会いできてうれしく思いました。
レッツノート独特の上蓋をあけるディスクドライブも、軽さのための独自開発(ディスクの送り出し機構がなくなるとかなり軽くなる)だそうです。デザイナーはスタイルをまとめるのに苦労していると思いますが、徹底してますね。
coさん、いつもコメントありがとうございます。
私はiphoneを扱うとき、落とさないようとても気を使います。
ものを繊細に扱う日本人が乱暴に使っても大丈夫なものを作り、アメリカ人が繊細に扱わざるを得ないものを作る。この逆転が面白いですね。
分厚くてごつごつしているのは全く問題ないのですが、
キーボードやパッド周りのデザインは
それとは関係なく
非常に残念なものだと感じてしまいます。