INSETTOの話 その2; 何故か9.11 NYにいた私たち
ニューヨークのトライベッカにあるイッセイミヤケショップは、フランク・ゲーリーのデザインによる旗艦店として、今やたくさんの人が訪れる名所となっています。2001年11月にオープンしましたが、当初はその2ヶ月前にオープンすることになっていました。
場所はワールドトレードセンター(WTC)から、およそ800メートル。9月11日にあの悪夢のような出来事が起こらなければ、9月12日には、華やかなオープニングセレモニーが開催される計画だったのです。
イッセイミヤケの腕時計シリーズ第1弾となるINSETTOは、そのオープニングの目玉でした。チタン製の記念モデルが200個限定で製造され、フランク・ゲーリー氏がシリアルNo.001を購入し、No.002を三宅一生さんが持つことになったという知らせも数日前に入ってきて、私は本当にわくわくしながら、9月10日の午後にニューヨーク入りしたのです。
そして、オープン前日の9 月11日を迎えます。
私と家族は、時差のせいで朝5時には目を覚ましてしまい、朝食がてら散歩に出かけました。「どこか高いところに上って、朝のNYの景色でも見ない?」といいつつ妻が候補としてあげたのは、まだ訪れたことなかったクライスラービルとワールドトレードセンター(WTC)。その日、ディスプレイの最終確認をすることになっていたイッセイミヤケのショップにいきがてらで、WTCの展望台で朝食ということも考えたのですが、そちらはホテルから4kmもあったので、とりあえず手近なクライスラービルへ出かけることにしました。
ところがクライスラービルにいってみると、「ここはオフィスビルで、見学者用の展望スペースはない」と太った警備員に言われて、すごすごと退散。
近くで朝食をとってから部屋に戻ったのは9時少し前でした。妻がガイドブックを見ながら「ごめん、ごめん。展望台があると書いてあったのはのはWTCだけだった」と謝るのを聞きながらテレビのスイッチを入れる私。いきなり巨大なビルの中腹から煙が吹き出している映像が飛び込んできました。キャプションを見るとWorld Trade Centerの文字。
「なんかその、WTCが大変なことになってるみたいなんだけど」などと間抜けなことを言いながら燃え上がるタワー眺めているうちに、もうひとつのタワーもいきなり爆発するように火を噴きます。画面に航空機は映っていなかったのですが、2機目の衝突でした。興奮したキャスターのものすごい早口を聞き取るのに苦労しましたが、どうやら飛行機が突っ込んだらしいということは理解しました。
もし、妻が正しくガイドブックを見ていたら、あるいは私がもう少し仕事熱心だったらその場所にいたことになります。
その後、無謀にもコンクリートとアスベストの粉が舞うショップ周辺まで歩いて行ったり、爆弾が仕掛けられたというガセネタでホテルを追い出されたり、封鎖される直前にレンタカーでマンハッタン島を脱出したり、ワシントンまで行って駐禁で切符きられたり、まあいろいろあるのですが、これも書き始めると当分終わらないのでのでこれぐらいにしましょう。
ともかく、INSETTOの船出はとても順調とは言えないものになってしまったのです。まだ、続きます。
photo by Yukio Shimizu