そのサイドスローを忘れない

Off,Sketches — yam @ January 18, 2010 12:56 am

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2000年頃のユニクロのCMだったと思います。

ジーンズをはいた細身の人が、大きな川の前に背中を見せて立っていて、ゆっくりと振りかぶりサイドスローで小石を投げます。その人の手から放たれた少し平べったい小石は、すばらしく遠くまで水平に飛んで、それから何度も水の上ではね、最後はつつっと波紋を重ねて水の中に消えていきます。すべてがスローモーション、日の光が印象的なCMでした。

その人は終止後ろ向きで、顔は見えませんでしたが、そのサイドスローをどこかで見たことがあると思いました。左足を大きく右の方に踏み込んで、鞭のように長くのびた右腕の先から、クロスするように飛んでいく高速の物体。その後、左に巻き込まれていく右腕を追って、流れるように回転する腰と右足。

大学生の頃、私はよく後楽園球場に足を運びました。野球が大好きだったからでもあるし、その頃に描いていた漫画のための取材でもありました。特に、ある投手の投球フォームが目に焼き付いています。その若きエース投手のしなやかなサイドスローは愕然とするほど美しく、試合前の練習のときから私の目を釘付けにしました。何度も何度もスケッチし、実際、私のへたくそな漫画作品に登場させたりもしました。

石を投げるCMを見たのはたった一度きりでした。しかし、確かにあの球場で見たサイドスローと重なって見えたのです。それからしばらくして、私は当時、ユニクロのアートディレクターだった、タナカノリユキさんと知り合いました。とても気になっていたので、彼に聞いてみました。

「あの小石を投げているのは誰ですか。すばらしくきれいなフォームですよね。」

「きれいでしょう。バファローズの小林コーチです。もう50近いのにさすがプロですね。ほとんど一発で、見事にカメラの軸線に合わせて小石をジャンプさせてくれました。スタッフの誰がやってもあんな風にはならなかったなー」

ジャイアンツから阪神に移籍した名投手、バファローズを経て、現日本ハム投手コーチの小林繁氏は、17日午前11時、心不全のため亡くなったそうです。合掌。

上海

Off — yam @ January 12, 2010 3:00 pm

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二泊三日で上海に行き、「新天地」という二十世紀初頭の町並みを復元した新しい観光エリアを訪ねてみました。正直に言うとあまり期待していなかったので、ちょっと感動しました。

昔の細い路地裏を再現した観光地というと、日本にもよくあるビル内のテーマパーク的飲食街を思い浮かべますが、かなり大規模で本格的。レジデンスもあり、小さな湖もあり、むしろ町の再生と言った印象のものです。石造りの建物の質感やディティールには風格があり、その中に並ぶバー、レストラン、ブティックなどの内装は現代的な感覚で細部まで良くコントロールされています。これほどに繊細で居心地の良いものに出会えるとは全く期待していなかったので、六本木ヒルズよりよほど消費意欲をそそられました。

過去の文化の表層的な再現に終わらせず、現代的なスタイルと融合させる事に成功した町並みは、ヨーロッパの城郭都市や京都の一部に好例を見いだすことができます。そういう街に共通する事は人々がその土地の文化遺産を愛し、今の生活の中にとりいれていること。

上海の他の地域を見る限り、そういうものが必ずしも大切にされているとは言いがたいし、「新天地」の石庫門建築も保存状態が悪くて新しく作られたものも多いらしいのですが、それでも、人々の心の中にある、過去の文化への深い敬意を感じることができました。やはり歴史のある国ですね。中国デザインの未来が楽しみです。

ついでに、上海に行って「上海」をやるという夢もかなえてきました。

Dyson, Apple, それぞれの理想主義

Mac & iPhone,Off — yam @ December 24, 2009 7:09 pm

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ダイソンの羽のない扇風機を手に入れました。今ちょうど夏であるオーストラリアでは、扇風機市場におけるシェアがいきなり30%だそうです。ファンがないので「扇」風機じゃないですね。Air-multiplierという英語名からすると増風機かな。

アップルやダイソンは、いつも新しい世界を切り開いてくれます。そのもたらす未来が、マイクロソフトやGE が与えてくれる生活よりも何となく良さげに思えるのは、前の二社の商品にはある種の理想主義があるからでしょう。この会社に未来を託したいと思わせてくれる何かがある。

しかし、この二社の理想は対照的でもありますね。

アップルがいつも新しい使いやすさを提案するのに対し、ダイソンが提起するのは新しい機械原理。どちらも本質的な機能とスタイルを革新してくれるのですが、車に例えるなら、アップルは新しい運転操作をデザインし、ダイソンは新エンジンを開発します。

ユーザビリティに理想を求めるアップルと違って、ダイソンの場合は、ユーザビリティが二の次になることもあります。今回の増風機でも、首降りスイッチを押すと、スイッチそのものが本体と一緒に回り始め、止めようとする指先からスイッチが逃げ回ります。風向きを上下に変える方法にいたっては、他人がやった状況を見ない限り想像できないでしょう。

それでも、いやだからこそというべきなのかな、多少の犠牲を払ってまで追い求めたシンプルな形には、エンジニアが思い描く理想が明快に込められています。私たちはそれに感銘を受ける。

週末に訪ねてきた古い友人がこの増風機を見て「あなたもこういうの作ってよ」とあっさりとのたまいました。耳が痛い。

ちいさい車見つけた

Off — yam @ December 5, 2009 12:18 am

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お昼ご飯の帰りに、オフィスのご近所で見つけた光景。カメラを持っていなかったので、一度オフィスに戻ってから出直して撮りました。ホイールアーチにちょこんと乗った一枚の紅葉が、やけにわざとらしいですが、シャッターを押しただけです。

名作と言われるプロダクトと、自然の造形物との見事な共演です。日本人の車離れが言われて久しいので、この写真だけで車種がわかる人も少なくなってしまったんでしょうね。ちいさい車です。

草枕

Off,Works — yam @ October 26, 2009 5:17 pm

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最近になって夏目漱石の「草枕」を読みました。

「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。」の有名なあれです。50になるまで読んでないって言うのも恥ずかしいですが、中学生のころに途中で投げ出したのを、今度は最後まで読みました。

小学校六年の時に「吾輩は猫である」を読んで、夏目さんの文体にかぶれたのを思い出します。 (more…)

悠久の時間の終わり

Off,Works — yam @ September 26, 2009 2:58 pm

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写真はソルトスプリング島ガンジスの港です。使い古された桟橋が打ち捨てられたように沈みかかっている光景が、この港町の時間の流れ方を象徴しているように感じました。

明日、日本に向かって出発します。到着は、原研哉さんディレクションのTOKYO FIBER ’09 SENSEWARE の最終日。成田から直接21_21に向かい、閉館間際に飛び込むことになりそう。

またせわしない生活に戻るようです。

とろいのが優雅に見える家

Off — yam @ September 19, 2009 3:38 am

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ソルトスプリング島のB&Bにいます。

ここは1980年代までイギリス人夫婦が暮らしていた館を改装したものらしいのですが、マナーハウスと呼ばれる本館のほかに、果樹園や、数頭の羊が飼われている小さな牧場、花を育てる庭園などがあります。元は農作業のための小屋なども改装されて、本館とともに宿泊施設として利用されています。小屋の前には、大きなリンゴの木があって、青い実を付けているのが絵のようです。 (more…)

ソルトスプリング島へ

Off — yam @ September 16, 2009 7:34 am

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バンクーバーからソルトスプリング島へ飛行機で移動しました。

ダウンタウンの北、コンベンションセンター脇の小さな桟橋から出発するその飛行機は、パイロット+乗客4名の小型水上飛行機です。

30分ほどの短い飛行時間ですが、入り江から入り江への軽やかな移動に、気分はもうポルコロッソ。 (more…)

充電

Off,Sketches — yam @ September 13, 2009 4:18 pm

vancouver_yacte

骨休みにきているバンクーバー。すばらしい快晴に気を良くして、少しうろうろしてみました。 (more…)

だらだらとした優雅さに憧れて

Off — yam @ September 10, 2009 11:25 pm

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バンクーバーで、親子三人で暮らし始めて今日で4日目です。ほとんど外食も観光もせず、近くのスーパーで買い物して、妻の食事で暮らしています。ずっとかかり切りだった仕事もようやく一段落ついたし、明日からはもう少しアクティブに活動しようかなあ。

こうして、観光目的でもなく北米にいると、初めて坂井直樹さんのロサンゼルスの豪邸に招かれたときのことを思い出します。ハリウッドのすぐ近く、フランクリンアベニューに面した、プール付き、5ベットルーム、4バスの大きな一軒家でした。 (more…)

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