速そうじゃなかった、サファリ
ドイツLAMY社のサファリSafariという万年筆に初めて出会ったのは、二十歳の頃でした。「少しも速そうじゃないのに、かっこいい」と驚いたのを憶えています。この時の「速そうじゃない」というおかしな感想については、少し説明を要するかもしれません。
小学生の頃、私はいつもシャープペンやボールペンを乗り物に見立てて遊んでいました。お気に入りのボールペンは潜水艇だったり宇宙船だったり。だから文房具を選ぶ基準もスピード感でした。筆記具らしさも使い勝手も関係なく、速そうなペンがかっこいいペンだったのです。
大学生になってまで「潜水艇」だったわけではないのですが、子供の頃からのプリミティブなかっこよさ観からは抜け出してはいなかったと思います。だから都内の大型文具店で出会ったサファリの、「速そう」ではない魅力に衝撃を憶えたのでしょう。
不思議な説得力のある未知のかっこよさでした。貧乏学生だった私は、何度かその売り場に見に行ったあげく、崖から飛び降りるつもりでその万年筆を手に入れました。そして、いつも持ち歩き、分解したりしているうちに少しずつ分かってきたのです。
グリップの二つのへこみがペン先を正しい向きに保持させるためにある事、インクの残りを確認する長円の窓が、筆記中に上に向くようにネジの終端が調整されている事、しっかりしたクリップが一本の金属棒を曲げて作られている事、キャップエンドの魅力的な十字が組み立て用ネジの頭である事。形のひとつひとつに意味を発見するたびに感銘を受けました。
おそらく私は、この万年筆によって生まれて初めて「機能美」の存在に気付いたのです。それは私にとって最初の工業デザイン体験だったとも言えます。こうしてサファリ万年筆は私のデザインの原点になり、それが今もLAMYの主力商品である事が、デザイナーとなった私を奮い立たせてくれます。
上のスケッチはサファリでサファリを書いてみたもの。実は私はこの万年筆を普段のスケッチには使っていません。どうやら私は絵を描くときと字を書くときにペンの傾きが違うらしく、ちょっとしっくりこないのです。サファリは元々、子供たちが使う初めての筆記具として開発されたとか。字を書くための正しい持ち方を、私に教えてくれているのかもしれませんね。
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iPadのコードネーム?がSafariPadだったらしいのですが、LAMYのSafariに相当するコンピュータ(&ブラウザ)という意味を込めてSafariという名前を使ったのかな、と思いました。
[…] http://lleedd.main.jp/blog/2010/09/23/lamy_safari/ グリップの二つのへこみがペン先を正しい向きに保持させるためにある事、インクの残りを確認する長円の窓が、筆記中に上に向くようにネジの終端が調整されている事、しっかりしたクリップが一本の金属棒を曲げて作られている事、キャップエンドの魅力的な十字が組み立て用ネジの頭である事。形のひとつひとつに意味を発見するたびに感銘を受けました。 […]
[…] 真偽の程は要確認かと思いますがw。 速そうじゃなかった、サファリ […]