ライブで絵を描くという事

Sketches — yam @ 9月 1, 2010 9:35 pm

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数年前、自分の画力がぐんと上昇したと感じた瞬間がありました。自分の個展の会場で、作品集「機能の写像」をぼちぼちと売っていたときのことです。

その日私は、展覧会まで来て買ってくれた人のために、本の見返しにその場でサインとスケッチを添えることを思いつきました。感謝の気持ちを表そうとした事だったのですが、実際にやってみると、人の所有物となった本に大勢の前でスケッチを描くのはとても緊張しました。失敗は許されないし。

緊張の中で、私は迷いを吹っ切るために、いつもとちがう間を取りました。紙の上にはっきり物の姿が見えるようになるまで集中力を高め、イメージを貯めてからラインを置くようにしたのです。結果は良好で、私の絵は格段に速くなり、何枚か描くうちに私はちょっとした新境地にいました。

絵を描くとき、うまく描けたと思えるまで人に見せたくないと思う人は多いでしょう。芸術には確かに人に邪魔されずに自分と向き合う時間が必要です。しかし一方で、絵は形を伝え、感覚を共有するためのコミュニケーションの手段でもあります。音楽にライブでしか生まれないものがあるように、ネイティブの人と語らないと語学が上達しないように、絵にも多くの人との関わりの中でこそ身に付けられる表現が確実に存在します。

不思議なことに、その時から絵を上下逆さまに描く事も苦痛でなくなりました。相手の方に向けてその場で絵を描く事は、会議の場で強力な説明ツールとなります。あの展覧会の場で私は、コミュニケーションの道具としてのライブドローイングを手に入れたのです。

6 Comments »

  1. 世界共通言語の絵でライブなコミュニケーションが自在に出来るって素晴らしいことですよね。
    しかし、さかさでもOKとは。さすがです。イメージが3Dに出来上がっているからこそ、
    ビューの上下も関係ないってことですね。

    コメント by Flyingtak1 — 9月 1, 2010 @ 11:09 pm
  2. その作品集にスケッチを描いていただいた1人です。今でも時折引出しから取り出しては、PC作業の束の間に眺めては、ドローイングの大切さを再認識させていただいています 笑
    その節はどうもありがとうございました、明日も眺めてみます!

    コメント by 053 — 9月 7, 2010 @ 2:56 am
  3. 053さん

    コメントありがとうございます。
    なにを描きましたでしょうか。
    短い時間で描いたものを何度も見られると冷や汗が出てきます。

    コメント by yam — 9月 12, 2010 @ 8:20 pm
  4. 写真の通り、サイクロプスです。冷や汗なんてとんでもない。眺めるこちらに冷や汗が。。。

    コメント by 053 — 9月 22, 2010 @ 7:06 am
  5. スタイリッシュなスケッチが見たくて、このブログに何度も足を運んでしまいます。山中さんのスケッチ画集、出版されないかなあ。

    コメント by ka- — 2月 25, 2011 @ 10:32 pm
  6. ka-さん

    コメントありがとうございます。
    いつかきちんとした形で画集をまとめたいと考えています。

    コメント by yam — 2月 27, 2011 @ 9:01 pm

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