水より生まれ、水に帰る

Bones — yam @ 4月 6, 2010 11:45 pm

papermachinesketch

竹尾ペーパーショウまで10日を切りました。もちろん既に準備は大詰めです。骨展の時のような準備の様子の紹介を、ここでしなかったのは、本音を言うと怖くて書けなかったからです。

ディレクターを引き受けてすぐ、静岡県三島市の特殊紙製紙工場に見学に行ったのは11月の終わりでした。実は製紙工場は初めてだったので、パルプのこと、抄紙機という紙をすくマシンのこと、水のこと、紙のテクスチャーのこと、どれもこれも目新しい事ばかりでとても楽しい見学でした。

ちょうどその時に作られていたのは紫のラシャ紙だったのですが、紫色の水とメッシュのローラが触れる先から紫の薄膜がどんどんできていくのが新鮮でした。そこからちゃんとした紙になるまでにはまだ長い工程があるのですが、「紙らしき物」が水から一瞬で生まれることに、ちょっと感動したのです。

その後、山口さんや緒方さんと展覧会の基本コンセプトについて議論を重ね、紙の原型、本質を感じてもらう展覧会にしようという合意ができて行く中で、この時の印象をひとつの作品として展示する事を思いつきました。1月に上のスケッチとともに竹尾さんやディレクターの皆さんに下記のような構想を提案したのです。

会場の一角に小さな出水口があって、そこからパルプを含んだ水がわき水のように流れ出ている。これを網のローラーが受け止めると、網の上に繊維が広がって薄い膜ができる。下に落ちた水は小さなせせらぎになって流れて行く。その上には長い網のコンベアが続いていて、先ほどの繊維の薄い膜を運んで行く。そのうちに水が切れてきて、紙らしきものができたかなと思った刹那にその「紙のプロトタイプ」は流れの中に戻され、再び繊維となって溶けてゆく。水は循環してこのサイクルを繰り返す。

製紙工場で広く使われる連続抄紙機の原理モデルであり、紙の輪廻転生をミニチュア化したキネティックアートでもあります。

その後、この構想を少し具体的に設計計画を進めてみて、思いっきり後悔しました。まず、丸ビルの会場内に水の循環システムを入れる事自体が簡単じゃない。しかもパルプが網の上で紙らしい姿になるには、パルプの濃度、水量、ローラーの速度などの様々な要素の絶妙なバランスが必要なのがだんだんわかってきたのです。

これをゼロから3ヶ月で開発するのはちょっと無理かもと思い始めたところに、竹尾の社長さんが背中を押してくれました。「紙の一生を見せてくれるとても重要な展示だと思います。完璧でなくてもかまいません。今後も時間をかけて開発していく事を前提に、その試作一号機を会場に置くつもりでやってみてください。」

というわけで、うまくいくかどうかさっぱりわからないぶっつけ本番の「紙らしきものを作るかもしれないマシン」が15日より丸の内に登場します。

2 Comments »

  1. Hello! I Marco (Hiroshi Matsubara mexican student) I meet you in 2010, you show us this piece in a video during your conference at University of Takaoka. Im very interested to watch it again, and share your work at the California College of Arts in San Francisco. Where can I find it?

    Thanks in advance. Your work is my inspiration.

    コメント by Marco — 1月 28, 2013 @ 11:34 am
  2. Hello Marco

    Thank you for having interest to my work.
    Please visit our web site as follows:
    http://www.lleedd.com
    http://xd.sfc.keio.ac.jp/en/

    コメント by yam — 2月 1, 2013 @ 11:26 pm

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