ビヨン&しっとり
Daily Scienceというカテゴリーを設置しました。本日のお題は、手応えの成分。
道具の動きや手応えなどを表すのに私たちは様々な言葉を使います。びゅん、するする、ぎゅっ、ぐにゃり…。こうした動的な感触を表す表現は繊細で多様ですが、これを計画的にデザインするためには、もう少し整理してこれを理解する必要があります。そのためには工学的な機械力学の手法がとても参考になります。
技術者は機械にある力が加わったときの手応え(応答特性)や振動を、主にふたつの成分の組み合わせで解析します。それは、バネ成分とダンパー成分。
バネ成分はなんとなくイメージしやすいでしょう。日常的な表現を使えば、「ビヨン」とした手応え。私たちの身の回りにある固体は多かれ少なかれバネの性質を持っています。金属もプラスチックも木も紙も、力を加えるとその力に応じてたわみ、はなすと元に戻ります。各部品のバネ成分が合わさって、機械はそれぞれに個性的な「しなり」を持つようになります。しなりは典型的なバネ成分です。
ダンパーという言葉は、日常生活ではなじみがありませんが、あえて感覚的に表現すると「しっとり」でしょうか。水飴や蜂蜜は、ゆっくりならばいくらでも変形するけれども、素早くかき混ぜようとすると強く抵抗します。ダンパーはこの速度に比例して抵抗が大きくなるという液体の性質(粘性抵抗)を利用した装置です。玄関ドアにもこれが使われ、開閉のときのちょっとしっとりした手応えを作っています。
手応えをデザインするときには、この「ビヨン」と「しっとり」をうまく組み合わせることが重要です。
例えばぬいぐるみやクッションの柔らかさ。以前はバネ成分が比較的強いスポンジがよく使われ、ぼよんとした感触のものが多かったのですが、最近は低反発型、つまりバネ成分が弱くてダンパー成分が強いものがよく使われるようになりました。もちろんクッションの中に機械的なダンパーは入っていませんが、しっとりしたダンパーの役割をする素材がいろいろ開発されて、大流行となりました。
工業製品の操作系では、この二つが機能に応じて調整されます。ガスコンロの着火ノブや、ドアノブなどの素早い応答の必要な装置ではバネ成分が強く、オーディオの音量調整やカメラレンズなどの、精密な操作が必要な装置ではダンパー成分が強く設計されます。
車の揺れ、レバーの手応え、スイッチの感触、web上のオブジェクトの動きなどのいろいろな手応えを、この二つの成分の組み合わせで語れるようになれば、あなたも手応えのデザイナーの仲間入りです。
写真は私がデザインした、OXO社Good Gripsシリーズのキッチンツール。しっとり成分の強い新世代ゴム、サントプレンが使われています。
勉強になります。
とっても面白いです。
「しっとり」の成分を意識的に感じたことはなかったので、注目してみます。
なるほど!
玄関ドアの開閉時のしっとり感…
こういう表現をされると他の言葉が思いつかなくなりますね。
デザインされたモノが行き着くのはヒトであり、アナログ情報なのだから、知覚させたいことを説明したり表現できたりすることでデザイナーとして一皮剥けると言う事ですかね。
不器用な私にもこんな事に着目したら変われるよと言って頂けている様でとてもありがたいです。
tq3さん
コメントに対する回答が遅くなりました。
おっしゃる通りデザイナーは、人と人工物の間におこる繊細な事について、
時には人の情感に訴える言葉で、時には装置のパラメータで語らなければなりません。
例えば、ビヨンとボヨンの違いがバネ定数の差なのか、慣性質量の差なのか。
あるいは粘性抵抗の差なのか。
学生に研究させてみましょうかね。
Ryoさん
コメントありがとうございます。
粘性という言葉から想起されるのはのは、「ねっとり」なのですが、
装置に触ると「しっとり」の方が「しっくり」来ますね。