カンブリア紀の素描

Sketches — yam @ 2月 17, 2010 2:19 am

anomalocaris

カンブリア紀の不思議な生き物たちがちょっとしたブームになったのは、90年代の半ばでしたでしょうか。先日掲載したハルキゲニアをはじめ、神様の試作品などと言われる五億三千万年前の生物群が、S・J・グールドの著作「ワンダフル・ライフ」に紹介され、その後NHKの番組でブレーク。様々な想像図やCG、果てはロボットまで製作されてマスコミを賑わしました。

当時、そのCGやフィギュアを見て、少し違和感を感じました。きれい過ぎる…。

私たちの身の回りにいる生き物たちには、それぞれに個性があり、全くの左右対称ではありません。長く生きるにつれて汚れや欠損も出てきます。体毛や歯なども、きれいに並んでいる方が珍しいぐらい。

しかし、CGのカンブリア生物たちはあまりにもシンメトリーでつるりとしていました。歯や触手もきちんと整列し、皮膚のしわやたるみもなく、プラスチックでできた宇宙生物のよう。そのことが、こいつらの異質さをむやみに高めているのではないか、そんな風に感じたのです。

そこで数体のカンブリア生物の化石の写真を見ながら、現存の生き物のつもりで私なりに描いてみました。上の絵はその一つ、アノマロカリスの頭部です。

生物学者でもない私が文献だけを便りに描いたのですから、もちろん正確なはずはありません。でも、こういう風に描いてみると、従来の復元図よりも少し見慣れた動物に近い感じがしませんか。

リクエストがあればオパビニアやウィワクシアも公開します。

(スケッチの初出は雑誌AXIS。98年、アスキー出版「フューチャー・スタイル」に再掲載。)

7 Comments »

  1. おこがましいですが、同じことを感じております。
    鉛筆デッサンでリンゴを描かせると、大半の子は左右対称のきれいな形に整えてしまいます。人物を描く上でも人形のようになりがちです。
    自然の物にはほぼ左右対称は無く、1ミリの起伏も感じて欲しいとしつこく教えています(笑)

    コメント by koh — 2月 17, 2010 @ 10:49 am
  2. 先月ミッドタウンにて講義をお聞かせいただいたyagiと申します。
    非幾何学的であることの効果を改めて気付かせて頂きました。一方、私は先生のスケッチには動きが感じられるために、より自然に感じるのではないかと思います。漫画を描く技術との関連を連想いたしました。

    コメント by yagi — 2月 17, 2010 @ 12:43 pm
  3. いつも考えさせられながら拝見しております。
    デザインの見方などとても勉強になります。

    デッサン素敵です。触手の節が軋みながら獲物に絡み付く様子が伝わってきます。
    なるほど、CGを見た時の違和感は姿が完璧すぎたという事だったのか。
    見たまま、感じたままに描くのは見慣れないと気持ち悪いけど、大事な事なんですね。
    可能でしたら他の生物のスケッチも見せて頂きたいです。
    よろしくお願いします。

    コメント by tq3 — 2月 17, 2010 @ 1:26 pm
  4. yagiさん

    運動する人を描くときに、シンメトリーをくずす事は基本ですね。
    形の揺らぎは成長の過程で発生し、姿勢の揺らぎは運動の過程で生まれる。
    というところでしょうか。

    コメント by yam — 2月 18, 2010 @ 1:22 am
  5. tq3さん、コメントをありがとうございます。

    うっかり、クリストさんの絵の直後のエントリーに自分の絵を出してしまった事に後から気がついて、恥ずかしさでドキドキしております。

    コメント by yam — 2月 18, 2010 @ 1:25 am
  6. kohさん

    乱れや揺らぎこそが自然の本質である事を、最も強く意識しているのは
    水墨画かもしれませんね。

    コメント by yam — 2月 18, 2010 @ 1:30 am
  7. […] カンブリア紀の生物のスケッチから、オパビニアです。五つの目、象の鼻のようにのびた口、開いたエビのような胴体としっぽ、もうわけがわかんないデザイン。これも過去に紹介したハルキゲニアやアノマロカリスと同じく、化石の写真から私なりに書いてみた、「古生物学者ごっこ」の一枚です。 […]

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