そのサイドスローを忘れない
ジーンズをはいた細身の人が、大きな川の前に背中を見せて立っていて、ゆっくりと振りかぶりサイドスローで小石を投げます。その人の手から放たれた少し平べったい小石は、すばらしく遠くまで水平に飛んで、それから何度も水の上ではね、最後はつつっと波紋を重ねて水の中に消えていきます。すべてがスローモーション、日の光が印象的なCMでした。
その人は終止後ろ向きで、顔は見えませんでしたが、そのサイドスローをどこかで見たことがあると思いました。左足を大きく右の方に踏み込んで、鞭のように長くのびた右腕の先から、クロスするように飛んでいく高速の物体。その後、左に巻き込まれていく右腕を追って、流れるように回転する腰と右足。
大学生の頃、私はよく後楽園球場に足を運びました。野球が大好きだったからでもあるし、その頃に描いていた漫画のための取材でもありました。特に、ある投手の投球フォームが目に焼き付いています。その若きエース投手のしなやかなサイドスローは愕然とするほど美しく、試合前の練習のときから私の目を釘付けにしました。何度も何度もスケッチし、実際、私のへたくそな漫画作品に登場させたりもしました。
石を投げるCMを見たのはたった一度きりでした。しかし、確かにあの球場で見たサイドスローと重なって見えたのです。それからしばらくして、私は当時、ユニクロのアートディレクターだった、タナカノリユキさんと知り合いました。とても気になっていたので、彼に聞いてみました。
「あの小石を投げているのは誰ですか。すばらしくきれいなフォームですよね。」
「きれいでしょう。バファローズの小林コーチです。もう50近いのにさすがプロですね。ほとんど一発で、見事にカメラの軸線に合わせて小石をジャンプさせてくれました。スタッフの誰がやってもあんな風にはならなかったなー」
ジャイアンツから阪神に移籍した名投手、バファローズを経て、現日本ハム投手コーチの小林繁氏は、17日午前11時、心不全のため亡くなったそうです。合掌。
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私は、名古屋生まれの名古屋育ちのくせに、子供の頃から大のジャイアンツファンです。
きっかけは、中学生の頃左腕のエースと言われていた新浦投手が投げるのを見て、まさに一目惚れしちゃったんです。
その頃の巨人のエースが小林繁投手でした。
だから、リアルタイムでず~っと見ていた方なんです。
あのスリムな体とサイドスローがとても美しいフォームでしたね。
さすがに、昨日亡くなったとの一報を聞いたときにはショックでした。
powaroさん
いつもコメントありがとうございます。
新浦投手、懐かしいですね。
いつも汗びっしょりだったような…。
私は、小林繁投手ファンの巨人ファンでした。あの日以来ずっと阪神ファンです。引退して以来、あまり動向がわからぬまま、それでもいつもきになってました。
近鉄時代は、外国で生活していたためか、全くコーチをしていたことを知りませんでした。そのころの活躍を知っておきたかった、そんな気持ちででいました。
この絵とエピソードに、とっても感激しました。
今回も、外国にいる間にニュースを知り、日本でのニュースを見たくてたまりませんでした。ひとつでも多くのエピソードを知りたくて、検索をしていました。
ありがとうございました。
naoさん
私も、あの石を投げている人が本当に小林投手だとわかったときには、その美しいフォームが健在であった事を心からうれしく思ったのですが 、…残念です。
どこかにあのユニクロのCMの動画ないかなあ。