ケータイの遺伝子

Works — yam @ 11月 1, 2009 6:05 pm

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携帯電話ってどうなっていくんだろうというのは、たくさんの人が関心を持っていることだと思います。お財布ケータイの基本設計やウィルコムのW-SIMの設計に関わってきて、携帯電話の一番重要な機能は「私であることの証明」なんじゃないかと考えるようになりました。「個人情報の保持と発信」と言い換えても良いでしょう。

携帯電話がこれまでの電化製品と一番違うところは、自分の素性を明かしてからでないと買えないことです。契約のときに免許証の提示を求められますよね。iPodやパソコンを買っても身分証明は必要ありません。あれによって、携帯電話にまつわるあらゆるサービスの支払いは、キャリアから自動的に個人に請求されます。それゆえに「購入」ではなく「契約」。

何をいまさら当たり前のことをと思うかもしれません。しかし、過去にこれほどに「私」と密接に結びついた機械があったでしょうか。私たちは、原理的には、住所も家族構成も、友人関係も、仕事やお金の状況も、自分の現在位置すらケータイを通じてキャリアに伝えています。そうやってあらゆる個人情報をゆだねることによって、ものすごくたくさんのサービスが受けられます。ものや音楽や映像の売り買いも、他人と四六時中つながることも、自分とは別の人格を持つことも自由自在。

これらのサービスの基礎となっているのが「私であることの証明」です。サービスする側から言えば「個人の特定」です。ここで、個人情報をキャリアにゆだねることの危険を言いたいのではありません。そんな警告はもう手遅れです。

技術のもたらす新しい価値は、性能のいかんにかかわらず、はじめからその技術自体に遺伝子のように組み込まれている」と先日ここに書きました。

携帯電話はいつでも個人と通話できる事を目的に開発されました。電話の進化のように見えましたが、新しい価値は別の所にありました。ある個人を特定してつなぐための「個人情報の保持と発信」こそが携帯電話の未来を開く最重要な機能であり、この技術に組み込まれた遺伝子だったのです。

まあ、だからこその「鍵」のデザインなんですけどね。明日の話題としてはちょっと硬すぎるかなー。

プロジェクトF セミナー

出席者:小山薫堂(脚本家) 、猪子寿之(ITアーティスト) 、山中俊治(プロダクトデザイナー)

日時: 2009112日(月) 14:0015:00

場所 東京デザイナーズウィーク 明治神宮外苑 中央会場

160-0013 東京都新宿区霞ヶ丘町2-3  デザインチャンネル スーパースタジオ

photo by Yukio Shimizu

4 Comments »

  1. 今までの携帯にはなかった質感ですね。
    本当に夏目翁の懐にありそうな…
    触れてみたくなります。

    >「私であることの証明」「個人の特定」
    最近では、消費行動まで含めて、情報が一元化されていますものね。
    鍵のデザインに何となく安心感を感じます。

    またしても息子が一週間の自宅学習です。
    学校から「周りにある直角をたくさん探せ。また、直角の機能を考えよ」
    という宿題が出ました。何とも奥深い課題に2人で頭を悩ませています。
    カメラを持って街に出るつもりです。

    個性的な鼎談、興味があります。どんなお話をされたのでしょうか?

    コメント by etoile — 11月 2, 2009 @ 11:03 am
  2. etoileさん
    「直角を探せ」ですか。なかなか、優雅な宿題ですね。
    直角の機能ですか。
    家具や机の角が直角である理由とか案外難しいかもしれません。

    コメント by yam — 11月 3, 2009 @ 6:45 am
  3. […] 山中俊治の「デザインの骨格」 » ケータイの遺伝子 (tags: mobile) コメントを書く […]

    ピンバック by links for 2009-11-07 « fragment — 11月 8, 2009 @ 2:31 am
  4. […] 山中俊治の「デザインの骨格」 » ケータイの遺伝子 (tags: mobile !) コメントを書く […]

    ピンバック by links for 2010-01-10 « fragment — 1月 11, 2010 @ 12:01 am

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