音をデザインする
国交省は、静かすぎることの危険性が指摘されているハイブリッド車や電気自動車に、エンジン音に似た音を加えることを義務付ける方針だそうです。
「せっかく静かな車のに」「わざわざ騒音にしなくても、もっと気持ちのいい音にしたら」などいろいろな意見があると思います。でも私は今回の方針でいいんじゃないかと思いました。私たちは想像以上に、車のエンジン音で身を守っているからです。
ちょうど2ヶ月ほど前に、研究室の学生達と東京電力の電気自動車を見学に行きました。事前に警告されていたにもかかわらず、動いている車の前や後ろに、ぼーっと立つ学生が後を絶たず、何度も声をかけるはめになりました。ゆっくり動く電気自動車がほとんど無音なのは、最初にみんなで確認したのですが、見慣れた形だからでしょうか、明らかに動いていても、ちょっと気を許すと立ちふさがってしまうのです。本当に危険なんだなと実感しました。
新たな警告音を作ることには賛成できません。街は様々な警告音であふれているので、クラクションのような大音量でない限り、人はそれを黙殺します。「左に曲がります」みたいに意識すれば十分にうるさいものでも、意外に気がつかないものです。
一方、人間は、聞き慣れた音の変化には意外なほど敏感です。電車の轟音の中でも平気で居眠りしていた人が、電車が止まって少し静かになるとはっと目をさますのを見かけるでしょう。人間は大きな音にもすぐ慣れてしまうのですが、その変化は意外に聞き逃しません。だから、エンジン音そのものは意識しなくても、その強弱によって、車の位置と動きを無意識に見張っているのです。
エンジン音の付加を恒久的な対策にするのは無理があるかもしれませんが、それでも、現状では最も効果的な、そしてエレガントな対策であると思います。
写真は、以前私がデザインしたお財布ケータイのための決済端末です。音楽家に協力してもらって音もデザインしました。ほんの少しの音色の違いやタイミングで、使い勝手ががらりと変わるので、試作とテストを繰り返して決裁音や警告音を作りました。
単にエンジン音といっても安易に導入せず、実地試験を繰り返し、十分な時間をかけて音色や音量をデザインしてほしいと思います。



