音をデザインする

Daily Science,Works — yam @ October 17, 2009 11:21 am

id_reader_writer

国交省は、静かすぎることの危険性が指摘されているハイブリッド車や電気自動車に、エンジン音に似た音を加えることを義務付ける方針だそうです。

「せっかく静かな車のに」「わざわざ騒音にしなくても、もっと気持ちのいい音にしたら」などいろいろな意見があると思います。でも私は今回の方針でいいんじゃないかと思いました。私たちは想像以上に、車のエンジン音で身を守っているからです。

ちょうど2ヶ月ほど前に、研究室の学生達と東京電力の電気自動車を見学に行きました。事前に警告されていたにもかかわらず、動いている車の前や後ろに、ぼーっと立つ学生が後を絶たず、何度も声をかけるはめになりました。ゆっくり動く電気自動車がほとんど無音なのは、最初にみんなで確認したのですが、見慣れた形だからでしょうか、明らかに動いていても、ちょっと気を許すと立ちふさがってしまうのです。本当に危険なんだなと実感しました。

新たな警告音を作ることには賛成できません。街は様々な警告音であふれているので、クラクションのような大音量でない限り、人はそれを黙殺します。「左に曲がります」みたいに意識すれば十分にうるさいものでも、意外に気がつかないものです。

一方、人間は、聞き慣れた音の変化には意外なほど敏感です。電車の轟音の中でも平気で居眠りしていた人が、電車が止まって少し静かになるとはっと目をさますのを見かけるでしょう。人間は大きな音にもすぐ慣れてしまうのですが、その変化は意外に聞き逃しません。だから、エンジン音そのものは意識しなくても、その強弱によって、車の位置と動きを無意識に見張っているのです。

エンジン音の付加を恒久的な対策にするのは無理があるかもしれませんが、それでも、現状では最も効果的な、そしてエレガントな対策であると思います。

写真は、以前私がデザインしたお財布ケータイのための決済端末です。音楽家に協力してもらって音もデザインしました。ほんの少しの音色の違いやタイミングで、使い勝手ががらりと変わるので、試作とテストを繰り返して決裁音や警告音を作りました。

単にエンジン音といっても安易に導入せず、実地試験を繰り返し、十分な時間をかけて音色や音量をデザインしてほしいと思います。

2 Comments »

  1. ハイブリッドカーや電気自動車が低騒音で危険だとしても(実際にはロードノイズがあります。タイヤと路面が擦れる音です)、歩行者の安全を守るべきはあくまでドライバーです。エンジン音を鳴らすから歩行者が避けろというのは、自動車優先の発想ではないでしょうか。

    また、低騒音の車が増えたら増えたで、人々はそれに慣れて、安全を確保する術を身につけるでしょう。実際に、私の近所の住民がプリウスに乗っていて、車庫の出し入れが非常に静かなのですが、著しく危険度が高いとも感じません。むしろ好ましいです。

    街が警告音であふれていることは認識されていると思います。この上、新たな警告音を増やすことには最大限慎重になるべきではないでしょうか。というよりも、守銭奴のごとく、デフォルトで反対するべきだと思っています。

    そもそも、自動車のエンジン音や警告音自体、騒音問題を引き起こしており、人々の生活や健康を損なっている事実があります。交通騒音には当然基準値が設定されていますが十分ではありませんし、「左へ曲がります」なども、単にうるさいというレベルではなく、苦しまれている方が少なからずいらっしゃいます(Googleで「左へ曲がります ご注意ください うるさい」で検索するといろいろ出てきます)。

    スピーカー音声を鳴らす人は皆「安全のために・便利のためにこの音だけは必要だ」と主張するのですが、それが日本の酷い音環境を作っています。総体として、騒音被害という「安全問題」が軽視されています。

    > 単にエンジン音といっても安易に導入せず、実地試験を繰り返し、十分な時間をかけて音色や音量をデザインしてほしいと思います。

    私はこういう場合、「音を出さない」という選択肢が第一に来るべきだと思います。音楽家やサウンドスケープの専門家が音を検討しデザインしたというような話はよく聞くのですが、個人的には、どうしてそこまでして音を出したいの? と首を傾げることが多いですね。また、いざ騒音問題が発生したときにも、音声を変えるだの、指向性スピーカーを採用するだのの話ばかりで、「音量を下げる」「音を止める」といった本質的な選択肢がなぜか出てきません。

    おそらく、音を鳴らすことに比べて、鳴らさないことは仕事として評価されないからではないかと思っています。

    私自身趣味で楽器や作曲(DTM)をやっており、この問題に敏感なのですが、日本の「音のデザイン」ほど未熟なものは世界のどこにもないと思います。

    Comment by 矢部 雄二 — May 4, 2014 @ 5:28 am
  2. >「左に曲がります」みたいに意識すれば十分にうるさいものでも、意外に気がつかないものです。

    これはおかしいです。
    「左に曲がります」騒音に苦しんでいる、生活を阻害されている人はたくさんいます。
    政府、行政もこのような騒音に対してやる気がないから泣き寝入りするしかないのです。

    Comment by 静音太郎 — April 10, 2015 @ 11:03 am

RSS feed for comments on this post. TrackBack URI

Leave a comment

Copyright(c)2017 山中俊治の「デザインの骨格」 All rights reserved. Powered by WordPress with Barecity