INSETTOの話 その3

Works — yam @ 9月 24, 2009 4:43 pm

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三宅一生さんは「INSETTOのプロトタイプを見て、Issey Miyakeの腕時計を作ることを決断した」とまでおっしゃり、今でも、いつもINSETTOを身につけてくれます。

その三宅さんの期待に答えることができたのかどうか、とうてい自信を持てませんが、少なくとも、私が信頼を寄せるセイコー・インスツルの技術者達に製造を依頼したことは正解だったようです。その後、ハッリ・コスキネン、吉岡徳仁、深澤直人、ロス・ラブグローブ(敬称略)と続く、シリーズのデザイナー達が提起する非常に難しい課題に、同社が高い技術を持って応えて商品化を実現していることをとてもうれしく思います。

もちろん、プロダクトの開発が、そう簡単にデザイナーの意図どおりに進んでいかないことは、デザインの現場にいる人間は誰でも知っていることです。特に製造方法とコストの問題は、時としてオリジナルデザインを根底から揺るがすような条件を突きつけます。その点はセイコー・インスツルの技術者達も容赦しません。

INSETTOのデザインにおいても、何度も難しい問題に突き当たりました。そういうときに北村みどりさんを始め、イッセイミヤケ INC.の皆さんは、心強い味方になってくれます。私が、技術者との交渉に疲れて多少の妥協も含めて落としどころを探し始めた頃に、北村さんは必ずこう発言されるのです。

「山中さんは、本当にそれでいいんですか。山中さんが納得されているなら、私は何も言いませんが。」

ある意味とても厳しい言葉なのですが、私は何度もこの言葉に励まされ、助けられました。つまらない妥協点に満足せず、さらに苦しい道を歩む気力を与えられるのです。そして、イッセイミヤケというブランドが維持し続けている、高いクリエイティビティの根源を見たような気がしました。

「あなたが納得しているなら、何も言わない」

ブランド・ビジネスを統括する責任者として、これほどクリエイターへの信頼を明快に表明した言葉があるでしょうか。

これまで書いてきたように、INSETTOの開発は決して平坦なものとは言えませんでした。しかし、こんな言葉を受けることができたことが、私の最大の名誉と幸福であったのかもしれません。

photo by Yukio Shimizu

1件のコメント »

  1. きれいです。はじめて「INSETTO」を三宅一生さんのウェブサイトで見たとき感動しました!独特で繊細なデザイン、そしてすごく安心する。それは時計のデザイン・機能性の精巧さにあるのかと思います。思わず欲しい!と思いました。是非手に入れたい素敵な時計です。

    コメント by Yoko Kobayashi — 7月 6, 2010 @ 2:21 am

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