だらだらとした優雅さに憧れて
バンクーバーで、親子三人で暮らし始めて今日で4日目です。ほとんど外食も観光もせず、近くのスーパーで買い物して、妻の食事で暮らしています。ずっとかかり切りだった仕事もようやく一段落ついたし、明日からはもう少しアクティブに活動しようかなあ。
こうして、観光目的でもなく北米にいると、初めて坂井直樹さんのロサンゼルスの豪邸に招かれたときのことを思い出します。ハリウッドのすぐ近く、フランクリンアベニューに面した、プール付き、5ベットルーム、4バスの大きな一軒家でした。
坂井さんにはいろいろなことを教わりましたが、このころに勝手に教わったことで、今も大切にしているのは「自然体の優雅さ」でしょうか。
その別邸は、大きな家でしたが決して豪華ではありませんでした。どちらかと言えばうらぶれた感じ。でも、一見無造作に白いペンキを塗られた室内に少なめにおかれた家具や、大きな絵が何となく洗練されていて、何とも自然な居心地のいい空間を作っていました。
私たち夫婦は、時には猫の餌やり係として何度か滞在させてもらいました。「冷蔵庫から勝手に食っていいよ」って言われて、大きな扉をあけてみると、シロップコーティングされた巨大な骨付きハムがどーんと入っていて、それを妻と少しずつ削って朝ご飯にしていました。
今思えば、他の食材も何となく洗練されていたし、温水プールの維持費だって馬鹿にならないし、それなりにお金のかかる生活だったような気します。その上、坂井さんはしょっちゅう何人もの友人を迎え入れていました。親戚の子供やら、よく分からないミュージシャンやら、アーティスト夫婦やら、多いときには10人近く暮らしていましたから、大変だったかもしれません。
でも、そんな苦労はみじんも感じさせない、自然体のだらりとした生活。そういう時間がこの上なく幸福だったのです。
上のスケッチはその頃に描いたecruというカメラのデザイン画。坂井さんのプロデュースで1992年にオリンパスから商品化されました。そう言えばこのカメラの名前でもあり、コンセプトワードでもあった「生成りの白」はあのロスの生活を良く表しています。
坂井さんのようにリッチになったことはないのですが、今こうして家族とバンクーバーにだらだらといることも、坂井さんから学んだ一番の贅沢です。