気がついちゃったものは仕方がない
展示もいよいよ大詰め、もう何十周歩き回ったかわからない会場を、また、始めから見ていきます。何度歩いても必ず、新たに気になるところが出てきます。つきることのない完成度との戦いです。
すでに現場の人々は疲れ切っています。時間もコストも限られている中で、その修正箇所を指摘すれば、また彼らに大きな負担を強いることになるでしょう。展示空間全体から見れば、わずかなひずみであり、直したところでどれだけの効果もないかもしれない…。そんなときに私が、胸の中で呪文のように繰り返す言葉があります。
「気がついちゃったものは仕方がない」
実はこれは佐藤卓さんの言葉です。どこかの現場で直接に聞いたのだったか、あるいは又聞きだったかさえも忘れてしまったのですが、デザインディレクターの最もクリティカルな瞬間の心境を端的に表す言葉だと思います。
そう、気がつかなければ、それで良かったのかもしれません。でも、気がついてしまったほころびを見逃す事はできないのです。
結局、申し訳ないと思いつつも、また、会場構成のトラフさんを呼びに行きます。
(写真撮影:吉村昌也)